JADEファウンダーの長山です。昨今、生成AIの台頭により、「SEOは終わるのか?」「AIが検索を置き換えるのか?」といった議論が活発になっています。しかし、この「AI 対 検索」という構図は、偽の対立軸だと考えます。本記事では、AIとSEO、そしてLLMO(LLM最適化)の真の関係性、Googleが描く未来、そしてそれらにどう向き合うべきか、JADE独自の「検索インタラクションモデル」というフレームワークを交えて考察します。
Googleが目指す「スタートレック・コンピュータ」
Googleは長らく、SFドラマ「スタートレック」に登場するような、自然言語で対話し、必要な情報を的確に提供してくれるコンピュータを目指してきました。これは、かつてGoogle検索部門を率いたアミット・シンガル氏が掲げたビジョンでもあります。アミットが退社してもう10年になりますが、Google の根本的なインフラや思想は、そこから変化していないと見ます。
近年のAI Overviews (旧SGE) やAIモードの導入は、突如現れたものではありません。これらは、生成AIという新しい技術を活用し、「スタートレック・コンピュータ」という長年の目標に近づくための、検索の延長線上にある進化と捉えるべきです。つまり、AIは検索と対立するものではなく、検索体験を向上させるための技術にすぎないのです。
真の対立軸は「Google 対 Google以外」
AIと検索の関係を考えると、真の対立軸は「Google 対 Google以外(OpenAI, Anthropicなど)」であると言えます。
当初、LLM(大規模言語モデル)の性能競争においては、OpenAIやAnthropicが先行し、Googleは後塵を拝していると見られていました。実際に、MMLUなどのベンチマークスコアでは、GPT-4などが高い性能を示していました。
しかし、戦いの舞台は単なるモデル性能から、「Webの情報をいかに効率よく収集・要約し、ユーザーに提供するか」という領域に移りつつあります。
クローリング問題とGoogleの構造的優位性
ここで問題となるのが、AIによるbotトラフィックの増大です。多くのAI検索エンジンやAIサービスは、最新の情報を得るためにWebサイトをクロールする必要がありますが、これがWebサイト運営者にとっては大きな負担となっています。
この状況は、皮肉にもGoogleに有利に働きます。なぜなら、Googleは以下の構造的な強みを持っているからです。
- 巨大な検索インデックス: Googleは既にWebの大部分をインデックス化しており、リアルタイムでクロールせずとも、既存のデータから情報を引き出せます。
- 高度なクロール技術: 長年の経験により、Webサイトに過度な負担をかけずに効率よくクロールする技術とノウハウを蓄積しています。
- 既存インフラ: Google のインフラは検索エンジンのような大規模分散システムを支えるために進化してきました。
実際、Google以外の「AI検索」の多くは、結局のところGoogleの検索結果をスクレイピングし、無断でデータを取得しているケースも少なくありません。Webサイト側から見れば、Google以外の無数のAIにクロールされるよりも、Googleに最適化する方が効率的であり、これが結果的にGoogleの優位性をさらに高めるのです。
AI時代のSEO:JADE流フレームワークで構造的に捉える
では、これからのSEOはどうなるのでしょうか? AIが検索体験に深く関わるようになっても、SEOの基本は変わりません。「LLM・生成AI最適化(LLMO/GEO)」は全く新しい概念というよりは、従来のSEOの考え方を、AIがコンテンツをより深く理解し、要約しやすくなるように、さらに推し進めたものと捉えるのが適切です。
しかし、多くの担当者が「様々な施策がある中で、何を優先すべきか難しい」と感じているのも事実です。あらゆるサイトに共通する万能薬はないため、自社のサイトの状況を立体的に捉え、優先順位を決める必要があります。
ここで役立つのが、JADEが提唱する「検索インタラクションモデル」です。これは、SEOを「検索エンジン」と「検索体験」の二つの側面から、それぞれ4つのフェーズに分けて考えるフレームワークです。
【詳しくはこちらです】
検索エンジンモデル (DCIR): 検索エンジンがURLをどう扱うか。
- Discover (発見): URLが見つけられるか。
- Crawl (クロール): サイトが適切にクロールされるか。
- Index (インデックス): コンテンツが正しく登録・理解されるか。
- Rank (順位づけ): 適切に評価され、順位がつくか。
検索体験モデル (QCLS): ユーザーが検索を通じてどうサイトと接するか。
- Query/Prompt (検索・プロンプト): ユーザーの検索・プロンプト意図に応え、表示されるか。
- Click (クリック): 検索結果やAIの回答の中でクリックされるか。
- Land (着地): ページでユーザーの意図を満たせるか。
- Surf (回遊): サイト内で次の行動につながるか。
このDCIR-QCLSモデルを使うことで、「今、自サイトのボトルネックはどこか?」「どの指標を改善するために施策を打つのか?」を明確にできます。そして生成AI時代においても、根本的な発想はここから変わりません。AI時代においては、特にDiscoverやCrawlはAIが情報を得る上で不可欠であり、Rankされた質の高い情報がAIの回答生成に影響します。また、Query (生成 AI においては Prompt)からSurfまでの体験全体を最適化することが、AIによる評価にも繋がっていきます。生成AI自身も検索を行いながら回答を生成するため、ユーザーのプロンプトはそのまま生成AIによる多数の検索クエリへと繋がっていきます。
LLMO/GEOを意識する際も、このフレームワークに沿って考えることで、「大規模分散システムに適切に評価され、ユーザーに良い体験をしてもらう」というSEOの本質からズレることなく、以下の様な基本的な施策の重要性を再認識できます。
- 発見、クロール、理解されやすいサイト構造の設計
- ユーザーの検索、プロンプト意図の充足
- ユーザーが滞在したいと思えるコンテンツ設計
特別な対策として過度に構えるのではなく、この様に構造的に課題を捉え、ユーザーファーストで質の高いコンテンツを作るという王道を追求することが重要です。
本質を捉え、構造的にSEOに取り組む
生成AIの登場は検索の世界に大きな変化をもたらしましたが、それはGoogleの検索という土台を揺るがすものではなく、むしろその進化を加速させるものです。Googleの構造的優位性は今後も続く可能性が高いでしょう。
私たちコンテンツ制作者やマーケターは、AIの進化を恐れるのではなく、「検索インタラクションモデル」のようなフレームワークを活用し、自サイトの現状を立体的・構造的に把握することが求められます。「検索エンジン」と「検索体験」の両輪を意識し、ユーザーを第一に考えた質の高いコンテンツ作りとサイト改善を追求していくことこそが、これからも変わらないSEOの核心であり続けるでしょう。