みなさんこんにちは、伊東考(こう)です。
「いつもなんとなくやっていることだけど、そういえば詳しくは知らなかったかも」な事象にDeep Diveする「考」シリーズの第2回。
第2回のテーマは、「NAP考」。
日本で独自に生まれたMEOという言葉の謎とともに、時に過剰に重視されるNAP(Name, Address, Phone number)について考えてみたいと思います。
「ローカルSEOの話なら、私は関係ないや」
と思われたかもしれません。
離脱しないで!(懇願)
実務でのかかわりは少ないかもしれませんが、ユーザーとしてはGoogle Mapsを使うことはきっと多いでしょうし、検索クエリ全体における地域意図クエリの割合は40%ともそれ以上ともいわれる今日、ローカルSEOの考えの一端に興味を持つことは損はないでしょう。
Googleの地図関連サービスはここ数年で驚異の進化を遂げ、Google I/Oにおいても毎年何らかの新機能アナウンスがなされています。
ニュース検索やビジュアルサーチとともに、重要なバーチカルの一つです。
NAPは、ローカル検索特有のコンセプトとして難しいものと捉えられる傾向にあるようにも思います。
NAPの重要性の現在地点について、この記事を通じて解きほぐしていければと思っています。
解きほぐしをするにはまず歴史から。今回もそこから始めていきましょう。
今日もどこかで俺を呼ぶ声が聞こえる、待ってろ!、Deep Diveするぜ!コウ!!(*注)
*注:伊東考がある事象に深く潜入する際に発する特別な叫び声。考は、伊東周晃と置換可能です。
MEOは和製英語
バズワードが生まれがちなウェブマーケティングの世界。
SMO(=Social Media Optimization)なんて言葉もかつてありました。ただ、この言葉は欧米由来のものでした。
MEOはローカルマーケティングの専門用語としては英語圏では使われていません。完全に和製です。
初代iPhoneの発売前、スマートフォン時代到来前のGoogle検索で[MEO]と検索してみましょう。
ご覧の通り、ローカルマーケティングとしての[MEO]はまだ存在しなかったようです(検索ツールの期間指定機能で2004年を指定)。
iPhone発売後の2008年の同検索結果が以下。1ページ目にMEOサービス提供会社が数件出るようになってきていますが、おそらくおおよそこの頃にそれっぽいサービスが提供されはじめたことが分かります。
「Gogole検索上で地図が目立つ場所に表示され始めたことに気づいた私たちは研究とテストを繰り返した結果、この地図に載せたい情報を載せる技術を習得しました!」と謳っている会社の2010年頃のセールスシートをネット上で見つけましたので、この時期にはほぼ存在していたはずです。
2011年には、Yahoo!ロコが誕生しています。
当時のMEOサービスの販売を牽引していたプレイヤーのひとつが、販促物制作や折込チラシのポスティングサービスなどを提供する小規模-中規模のいわゆるSP会社(Sales Promotion)のようでした。
私、考(コウ)が最初に入社した会社が、広告・販促の世界でいわゆるSP領域に区分される駅の広告(中づり・駅看板など)を主体とする会社だったということもあり、なんとなく想像ができるのですが、この当時のMEOサービスは、きっと「道標看板」や「駅広告」のオンライン版だったのだと思います。
普段こういった媒体を売るときの基本的なセールストークが「その地域に住んでいる人に」「目立つ場所で訴求できます(視認性の高さ)」なので、そのアナロジーをGoogle検索結果に見出したのだと推察します。
ただ、基本的な検索エンジンの仕組み(クロール・インデックス…)の理解を前提とした形でのサービス提供ではなく、「とても目立つ」「道標」「電話帳広告」の域を出ることはなかったことは想像に難くありません。
その後の、スマートフォンの隆盛とともに、モバイルでお店を探す行動がますます増加。
日本では、2016年にGoogleがCMで「Near Me(近くの)」検索を訴求するテレビCMを展開するなども行われました。
この時期前後からは、インターネットマーケティング専業会社がこの領域に多く参入開始します。
それに伴い、NAPというコンセプトも徐々にポピュラーになってきました。
エンティティを認識するための要素としてのNAP
NAPは、店舗名(Name)、住所(Address)、電話番号(Phone number)の頭文字をとった略称で、ローカルSEOにおいては重要なコンセプトのひとつです。
世の中に同じ店舗名のお店は生まれがちなので、それだけでは一意認識することは難しいけど、この3つをひとつのキーとして活用すればネット上のドキュメントからある一意の実店舗を認識しやすくなるということですね。
すなわち、エンティティ(現実に存在するもの)を認識するためのシグナルとしてNAPが用いられています。
インターネット上に存在する自店の情報全般について「店舗名は全く同じじゃないといけない!」「電話番号はハイフンありなしを統一しないといけない!」など細かなTipsが重要ノウハウのように言われたのもNAPにまつわる難しさを感じさせるひとつの要素でした(今は、そこまで気にするしなくても構いません。努力目標です)。
欧米でNAPの一貫性を究極的に探究したひとつの成果物が、” Local Search Ecosystems” と呼ばれるチャートです。
カナダのWhitespark社および有志が中心になって、2014年から2017年頃にかけてアップデートされました(以下チャートは米国版)。
このチャートを通じて把握できることは主に5つ。
- ローカル検索のエコシステム全体の中の主要プレイヤーは誰か
- どのサイトが主要なローカルデータ流通を担っているか
- どのサイトがどのサイトにローカルデータを供給しているか
- どのサイトがどのサイトからローカルデータの供給を受けているか
- サイト間の関係性の強さの度合い
このチャートの作成は主に公開情報(サイトに掲載されているパートナーシップ情報、プレスリリース等)に基づいているのですが、「NAP一貫性」への執念が伺われる力作です。
パイチャート上部の”PRIMARY DATA AGGREGATORS” (プライマリーデータアグリゲーター)は馴染みが無い方も多いと思います。
factual, infogroup(data axle), acxiom, Localezeはローカルデータ(NAP)の主要なデータ保有企業で、彼らがさまざまな情報サイトや地域ディレクトリなどに基礎となるローカルデータベースを供給しています。
日本で言うと、ゼンリンさんやNTTの番号情報サービスさんあたりが近いイメージでしょうか。
ここから分かるのは、NAPの一貫性を保つための最も効率の良い方法はデータアグリゲーターにデータプッシュすることによる一括更新だということです。
事実、Moz Localなどのいわゆる欧米由来のローカル情報一括管理ツールというのは、こういったデータアグリゲーターとのパートナーシップによって成立しており、そのカバレッジの広さがウリです。
ナレッジグラフが登場し、エンティティビルディングの時代へ
このようなローカルマーケーターのNAP統一の努力の一方、Googleはローカル検索にとっても大きな転機となるサービスを公開します。ナレッジグラフです。
ナレッジグラフは2012年のこのブログ記事にある有名な言葉、”Things, not strings” (文字列ではなくモノやコト)で表現されるように、エンティティ認識が大幅に進化するものでした。
これにより、ウェブ上のドキュメントのクロールに常に依存していた状況から、エンティティの自前データベースを持つようになります。
これは実店舗情報についても影響があることで、これまでNAPを手掛かりに間接的に把握していた店舗情報を自前のデータベースを構築することによって直接的な把握ができるようになったのです。
間接から直接への大きな転換です。
今日のGoogleビジネスプロフィールにおける認証された店舗オーナーによる更新と、Googleアカウントユーザーによるレビュー、Googleマップアプリユーザーのエンゲージメント情報が加わり、情報の質・量・更新性が格段に向上し、Googleはローカルデータに関する巨大なファーストパーティーデータ保有企業と言える存在となりました。
こうなると必然的に、ローカル検索観点でのNAPの重要性は低下します。
むしろ自店ブランドのエンティティが、Googleのデータベースの中に望ましい形で構築されるように活動していくことが肝要となりました。
これを「エンティティビルディング」と呼んでしまいましょう。
エンティティビルディングの観点において、GBP運用はGoogleのDBに直接データを格納できる有力な方法という意味で確かにプライオリティは高いもの位置付けられます。
個店は基本的にシグナルが足りない。だから両立が必要
では、今日のローカルSEOはGBPが全てで、あとは不要か?NAPは無視か?
それは極端な議論です。
マクドナルドのようにシグナルを数多く獲得できているブランドの場合は、細かいことは気にせずそのシグナルの多さをレバレッジすることが得策なはずです。
指名検索も多いわけですから、投稿を通じてキャンペーン情報へのリーチを効果的に高めることができます。
しかし、世の中の多くのお店は個店については、Googleから見たときにウェブ上のシグナルが足りないことが圧倒的に多いです。
マップ検索で店舗名称の中に含まれるキーワードのランキング影響がいまだに高いのも、代替要素がまだ十分ではないからでしょう。
この段階で、Googleの中の「目立ちそうな場所に露出しよう」と”MEO” を行ってもうまくいきません。
エンティティビルディングが必要です。
その中の取り組みとしては、メディアの注目を集めやすいメニューの開発、広報全般、専門媒体への登録などさまざまなオプションが考えられます。
また新規店にとっては、NAPをケアすることにも意味があります。ネット上で少しずつ増えてくる自店に関する言及をしっかりGoogleに伝えることができれば、お店に関連するさまざまな検索クエリでの露出も徐々に高まっていきます。それは、お店のエンティティの進化の結果と捉えることができます。
このように判断は常にケースバイケースで、バランスが大事です。
まとめ
MEOは、登場当初は「駅看板」など目立った場所に掲出できる”新しい広告”的な取り組みとして始まり、多少の変化はあるとは言え基本的にこのワードのニュアンスは維持されてきたと私は思います。
しかし、今日のローカルマーケティング・ローカルSEOの実際は、これまで概観してきたとおり、さまざまな取り組みを通じた「エンティティビルディング」あるいは「ブランド構築」と言え、またそうあるべきだと考えます。
読者の中には、「自然検索のマーケティングにも通じるな」と思われた方もいるかもしれませんが、「ブランド」「信頼」の高いところが強いは、ローカルでも同じですよね。
今回の「考」が、ローカルマーケティングとの向き合いに多少なりとも貢献すれば幸いです。
またお会いしましょう!コウ!