はじめに:SEOにユーザー行動は必要?
※この記事は、2022年の年末に実施されたISM LT祭りにおいて、筆者が話をした「Land&Surf分析って何やるの?どうすればいいの?」の詳細解説記事になります。
はじめましてJADEの山田です。
皆さんは、こんな話聞いたことありませんか?
「今のSEOにはユーザー行動が重要だ!」
「直帰率や、回遊率がランキングに影響を与えている!」
SEO担当者の方でしたらこういった話を耳にしたことがあるかもしれません。
では、本当に重要なのでしょうか?
もし重要だとしたら、どういう分析を行いますか?どういう施策を打ちますか?
ここまで答えられる方はそんなに多くないのではないかなと思っております。
そこで今回のブログでは以下の2つについてお話をしたいと思っております。
- SEOにおけるユーザー行動の重要性について
- ユーザー行動の分析方法
SEOにおけるユーザー行動の重要性について
結論から述べますと、SEOにおいてユーザー行動は非常に重要だとJADEでは考えております。
そして、その流れはより一層強くなっていくと思っております。
最近のGoogle社内の発言を見ても、このあたりがうかがえます。
海外SEO情報ブログでも紹介されておりましたが、BrightonSEO カンファレンスにおいて、Google の John Mueller氏が以下のように語ったそうです。
私が思うに、ある時点で、リンクの重要性は多少低下するのではないだろうか。
というのも(今の時点では)、ウェブ全体のコンテキストのなかで(リンクなしでは)コンテンツをより適切に判断することができず、(関連性がある)ページを探すのにリンクをある程度は考慮するからだ。
しかし、時間の経過とともに、リンクは今ほどには大きな要因ではなくなるだろうと私は考える。実際に少しずつ変化してきている。
他にも、弊社のTwitterでも紹介いたしましたが、Google検索担当副社長Hyung-Jin Kim氏もSMX NextでGoogleのメジャーアップデートの目標はユーザーを最も満足させるコンテンツの順位を高めていくことだと語っています。
In terms of the goals of major Google updates dating back to the Panda days, Kim indicated that the focus has largely been the same: improving the quality of results for users and elevating content that best satisfies the searcher’s experience.
Googleは一貫して、ユーザーにとっての検索体験最適化を行っています。
すなわち、長期的な目線で考えると、ユーザーに最良の体験を提供できているサービスがSEOとしても成功していくことになるわけです。
さらに、弊社のクライアント様の事例を見ていてもそのことがうかがえます。
ユーザー行動が要因(と思われる)の表示回数の増加、順位変動、果てはインデックスの可否などにも影響を与えているのではないかと思われる事例があります。
具体的な数字をお見せすることができなくて恐縮なのですが、
直近でも、ページの表示速度改善によるユーザー行動の良化によるサーチコンソールにおける表示回数の増加が見られました。
こういったGoogle社員の発信や、弊社内での観測からも、ユーザー行動の重要性というのは日増しに大きくなっているように思うのです。
しかし、こういったユーザー行動までを包括してSEOとして捉えている方はまだまだ少ない印象です。
そこで、JADEではSEOにおける新たなフレームワークを提唱しています。
JADEでのSEOの考え方
DCIR / QCLSモデル
JADEが発信している、SEOにおける新たなフレームワーク、それはDCIR / QCLSモデルです。
詳しくは、こちらのブログを読んでいただけますと幸いです。
簡単に述べますと、検索エンジンに対してだけ最適化させていくのではなく、検索ユーザーに対しても最適化していこうねという考え方です。
- 検索エンジンモデル: Discover - Crawl - Index - Rank (DCIR)
- 検索体験モデル: Query - Click - Land - Surf (QCLS)
SEO担当者の方とコミュニケーションを取っていていると、まだまだSEO=DCIRと捉えている方が多いなという印象です。
もちろん、DCIRはとても大事です。
そもそもインデックスされて、順位付けされなければ、QCLSを考えるフェーズにすら辿り着けません。
しかし、DCIRがそれなりに上手くいっていて順位が上がらないということであれば、QCLSまで考えていただきたいのです。
QCLSがSEOに与える影響
QCLSの改善を考えていくことは良質なユーザー行動のデータをシグナルとしてGoogleに伝えることに繋がるわけですが、個人的には検索順位改善以上の効果があると思っています。
例えば、筆者が以前勤めていたグルメサイトの事例で考えてみますと、
ユーザーがグルメサイトで素敵なお店を見つける体験ができ、そのサービスをまた使いたいと思ってもらえたら、以下のようなアクションを取ってもらえるかもしれません。
- そのお店ページをSNSでシェア
- 今後そのグルメサイトを指名使いする
- ダイレクト流入の増加
- 指名検索数の増加
- ブログなどで言及しリンクする
一人のユーザーを満足させることによって、こういったSEOに影響しているかもしれない様々なシグナルを獲得していくことに繋がる可能性があるわけです。
これが、ユーザー行動改善と向き合う本質的な価値ではないかと考えています。
QCLSに取り組んでも、すぐに目に見えた効果が出るものではないかもしれません。
しかし、中長期的に検索結果上で強いサイトを作っていく上では避けて通れないものであり、時間がかかる施策だからこそ、できるかぎり早く取り組んでいただければと思います。
ユーザー行動の分析方法
皆さんが陥りがちな誤り
では、早速Land&Surfを改善していこうとしたら、皆さんはどのように考えますか?
上記で紹介したDCIR / QCLSのブログを見ると、Land/Surfの部分にこう書いてあるかと思います。
- Land: 無事ユーザーが意図されたURLに着地し、その際にもともとの検索意図が充足されるようにする。
- 指標は、エンゲージメント率や直帰率、読了率など。
- Surf: ユーザーがサイト内でジャーニーを継続し、サイト内を回遊するようにする。
- 指標は、回遊率やコンバージョン率など。
これを見てやりがちなのが以下のような行動/考え方です。
- 回遊率などの指標をKPIとして追い、数字を達成するために(余計な)サイト内リンクを増やしてみる。
- 目標KPIを達成することを目的とし、ユーザーの行動に目を向けなくなってしまう。
- 回遊率の上昇/GA4のエンゲージメント率が上がればランキングに寄与する。
これらの指標はあくまでも、ユーザー行動が改善された結果として良くなるものだと考えます。
例えば、回遊率を良くするために、誤タップを誘発しやすくするUIを作って遷移させる回数を増やし、回遊率を(数値上)良くすることは、ユーザーにとって良いことだと思いますか?
指標がなければ良くなっているのかを判断できませんし、指標はとても大事です。
しかし、ユーザーと向き合うことをやめ、指標とだけ向き合い始めると途端におかしな施策を考えついたりしてしまうものです。
あくまでも、指標はユーザー行動を改善した結果として付いてくるものであり、まずはユーザーをしっかりと見ることを大事にしてください。
分析の進め方
ここからは筆者が分析をしている際に使用しているツール、また手順について記述していきます。
使用しているもの
基本的な分析の仕方としては、GA4で取得したイベントをBigQueryにエクスポートし分析を行っております。
Clarityは、Microsoftが無料で提供しているヒートマップツールです。無くても分析は十分に行えますが、あるのと無いのとでは、ユーザーの行動把握に差が出ますので導入できる方は是非使用してみてください。
Colaboratoryはブラウザ上で Python を実行できます。BigQueryも動かせますので、BigQueryからデータを抽出し、分析をするというのを環境構築不要でColab上で実行できるため重宝しています。
Land&Surfで目指すべき状態
今回は明確なCV(購入や予約など)があるサービスを例に考えていきます。
そのサービスにランディングしたユーザーは”何か(商品/飲食店/物件/求人など)”を探しているはずです。
そういったサービスにおいて、ランディングした全てのユーザーが、その”何か”を見つけることができ、CVをしたとしたら、きっとそのサービスはSEOに成功すると思っています。
究極的な話ですが、それがLand&Surfで目指すべき(近づけていくべき)状態だと考えています。
つまり、CVしているユーザーを理解し、CVしていないユーザーとの差分を見ていくことで、CVするユーザーへと”転化”していくことを目指します。
STEP1:CVしているユーザーが”何をしているのか”を探る
闇雲にCVしているユーザーの行動を見にいっても何も特徴を掴むことができずに終わってしまうでしょう。
掴めたと思っても、それは一部の偏ったデータを見ている可能性も考えられますので、まずは全体把握を行います。
例として、グルメサイトにおける”CVしているユーザーはどういうコンテンツに触れているか”で考えてみましょう。
グルメサイトには以下のような様々な情報があります。
- 写真
- 口コミ
- メニュー
- 座席(内観)
これらはほんの一部ではありますが、CVしているユーザーは特定のコンテンツをよく見るのではないかという仮説のもと”相関性”を確認してみましょう。
Colaboratoryを使って相関係数を見てみると以下のような表になりました。
この中では、”写真(photo)”と”CV”との相関性が他よりもありそうだということが見えてきます。
そして、”座席(seat)”や”口コミ(review)”と”CV”との相関性は無さそうです。
※上記の数字はダミーです
こういった全体把握を数字で行うことによって、見るべきユーザー行動を絞ることができます。
座席や口コミを見ているユーザーは無視していいのか?というとそういうわけではなく、あくまでも優先順位付けをしましょうということです。
ここでは、最もCVに貢献してくれていそう(相関性が高い)なのが写真なので、写真を見ているユーザーに絞ってまずは分析をしていくと効率が良いのではないかということです。
もちろん時間があれば、「CVしているユーザーはなぜこんなにも座席を見ていないのか?」という疑問を解消してもいいかもしれません。
もしかすると座席ページへの導線が分かりにくいなどで、ただ見つけられていないだけの可能性もあります。
それを見つけやすく、回遊しやすくすることで座席とCVとの相関性が高まる可能性は十分にあります。
STEP2:なぜユーザーはそのコンテンツを見るのかを把握する
上記でCVするユーザーは特定のコンテンツを見ている傾向にあることが分かったら、そのコンテンツを見ているユーザーの個票を抽出します。
個票を見る際には以下のような項目を抽出し見ています。
- user_id
- event_name(page_viewやCVのみに絞って)
- ga_session_number(そのユーザーは初めての訪問者なのかどうかを確認するために)
- referrer
- URL
- order(event_nameの発火順に並べています)
この個票を見ることでユーザーがどのページにランディングして回遊し、CVに至ったのか、また至らなかったのかを確認することができます。
CVするユーザー行動、CVしないユーザー行動にどういう差分があるのか、どういう背景があるのかというのを、ユーザーが見ているURLを確認しながら仮説を立てていきます。
こうして個票を見ていくと、CVする行動パターンが見えてきます。
そうすると、個票の中に「この行動パターンならCVしそうなのにな…」といったものが見つかるはずです。
そのユーザーの踏んでいるURLを見てみると、例えば写真が全然無かったり、店舗情報/商品情報が魅力的に書かれていなかったりと課題も見つかってくるはずです。
STEP3:ユーザーの行動をより深く理解する
上記のように個票を見ているだけでは、分からないユーザー行動もあったりします。
そんなときには、ヒートマップを利用してユーザー行動の意図を把握しにいきます。
レコーディング機能を利用して、そのページでどういうユーザー行動が行われているのかを見ることで、そんなところで躓いているのかという発見や、ページのローディングの遅さで離脱しているなど、ただイベントを並べただけでは気づけない発見があるはずです。
Webの業界で仕事をしている人達にとっては”当たり前”のように思うことが、ユーザーにとっては当たり前ではないことが多々あります。
皆さんもこういった経験ありませんか?
- YouTubeなどで流れてくる広告で、「こんな広告で誰が購入するんだよ…」
- 何でこんな大きな文字、目立つ色で書いてあるのにユーザーは気づかないんだ…
そんな感想を抱く皆さんの感性は”当たり前”ではないのです。
- 皆さんが絶対にCVしないであろう広告から多くのCVが発生し、
- 皆さんが気づいてもらえるであろうと思って置いたボタンやテキストにユーザーが気づかない
ことが”当たり前”なのです。
自分の思い込みを無くす、ユーザーの感性に近づけていくためにもこの個票の分析、ヒートマップの確認こそが重要な仕事だと思っています。
STEP4:施策を考えていく
STEP3までの流れの中で多くの仮説や課題が生まれたはずです。
あとは、その仮説を検証したり、課題を解消することをしていくだけです。
施策を考えていくうえで大事にしていることは、
CVに近いところから改善していくということです。
CVに近いところから改善することで、CV数の増加に繋がりやすく事業内での優先度も高まっていくはずです。
事業貢献に繋がらないがために、なかなか実装工数をもらえないというのはインハウスの方であれば経験あるのではないでしょうか?
ユーザー数が増えても、CV数が増えなければ評価されにくいのはどこも同じかと思います。
皆さんの考えた施策を実行に移してもらいやすくするという観点でもCVに寄与するところから施策を打っていくことを優先していただくと良いのではないかと思います。
注意:QCLSは一つの流れとして捉える
皆さんに注意いただきたいこととして、QCLSを一つの流れとして捉えていただくということです。
ユーザーの動きはQuery → Click → Land → Surfと連続した動きを取っています。
つまり我々もそれらを一連の流れとして評価しなければいけないということです。
Clickを上げるために、【2023年最新】などを闇雲にタイトルに付けたりしていませんか?
それでClickが増えて、Land / Surfに悪影響を与えていませんか?
本当にCVは伸びていますか?
大量のユーザーを獲得したものの、そのユーザーに最適な体験を提供できなければ悪質なシグナルが溜まっていくことになりかねません。
自分の提供しているコンテンツとタイトルに乖離がないかを考えて、Clickが増えてもLand / Surfに悪影響を与えていないかは常に確認するようにしてください。
最後に
今回はCV(購入や予約など)があるサイトを例に分析方法を解説してきましたが、
これは明確なCVが無いページでも同じようなやり方で分析はできます。
ユーザーの意図を満たすポイントをCVとして置き換えてもらえればいいだけです。
それでも、うちのサイトではどう分析すればいいか、どういう改善を行えばいいか分からない場合にはご相談いただければと思います。
ここまで読んでいただいて、こう思われた読者の方もいらっしゃるはずです。
「そのLand&Surf分析/改善はうちの会社だとPdM(プロダクトマネージャー)がやっている仕事だよ」
その通りだと思います。
つまり、SEOで成功することはプロダクトとして成功することと同義になってきていると考えています。
このプロダクトとして成功するとは、中盤の”Land&Surfで目指すべき状態”でも語ったように、多くのユーザーさんにCV(満足)してもらい、また使いたい、他の人にも勧めたいと思ってもらえる状態だと考えます。
社内のPdMの方がやっている施策を見ながら、入り口(Landing)付近の分析/施策が回っていないなと思ったらその部分を担ってあげるなど、協業しながら改善に努めていただければと思います。
皆さんのサービスに訪れるユーザーが1人でも多く満足できることを祈っています。