どの検索クエリ(検索語句)に広告を表示するか、どれだけ表示できてクリックを得られるかは、検索広告を配信する目的を達成するために特に重要なことです。そして、広告表示を狙いたい検索クエリをなるべくたくさんカバーするためには、部分一致キーワードをうまく使わなければほぼ不可能です。類似、派生まで含めたすべての検索クエリをあらかじめキーワードとして広告管理画面に登録するべく網羅しておくのは現実的に難しいです。毎日Googleで行われる数十億回の検索のうち15%はこれまで検索されたことのない検索クエリだからです。
つまり、過去の実績の検索クエリデータだけでなく、これから生まれるであろう検索クエリのうち広告表示をしたい検索クエリをある程度予測しながら、それらをカバーできるように部分一致キーワードを活用した設定をしておく必要があります。
では部分一致キーワードはどう活用したらいいのか、ただ単になんとなく狙った検索クエリと意味合いが似ている部分一致キーワードを登録しておけばいいだけなのか、部分一致キーワードにヒットする検索クエリはどう決まるのか、これがなかなかシンプルな仕様ではないために、明確に正解と言える方法を導き出すことが難しいものです。複数の要素を掛け合わせながら、要素それぞれが常に一定の優先度で扱われるわけではない機械学習が前提の仕組みなため、特定の要素をどうしたらどういう結果になるか明確にわかるものではないからです。
しかし、あらかじめ結果を予測しやすかった機械学習導入以前のころに比べ、機械学習が導入されて精度も高まった今は予測できなかった素晴らしい結果を生み出すこともあり、やはりこの仕組みはできるだけ理解して積極的に活用したいものです。
部分一致キーワードにヒットする検索クエリがどのように決まるかを一言で説明することはできませんが、部分一致をできるだけ理解するため、この数年間での情報、変化や傾向、事例などをいくつかご紹介します。
広告テキストは特に重要な要素
例えば公式ヘルプの例にあるように、「芝刈りサービス」という部分一致キーワードは、「芝生 エアレーション 価格」という検索クエリを広告表示対象としてカバーするようです。文字列レベルで部分的に一致するだけではなく、意味合い的に似ている、関連性がある検索クエリにも一致します(「部分一致」という表現自体がもう実態とは異なり過ぎているとも思います)。
「芝生 エアレーション 価格」という検索クエリでさらに表示回数とクリック数を上げたい場合、「芝生 エアレーション 価格」をキーワードとしても登録したほうがいいかも知れませんが、それより何より最も重要なことは「芝生 エアレーション 価格」というクエリで検索するユーザーがクリックしたくなる広告テキストを作ることでした、少なくとも以前は。
明確にいつからいつまでと断定することはできないものですが、公式情報と筆者の個人的な感覚からすると、およそ6年ほど前から3年前くらいまではこの傾向が強いものだったと言って間違いないだろうと思います。
とっても大まかに申し上げると、検索ユーザーが検索を行うとまずすべての広告が検出されて、その中から、検索された検索クエリで表示するべき広告が選ばれる、というものでした。
公式情報としては時と場により微妙な変更がありつつも今も公式ヘルプ内にこのページ(オークション)があるので、基本的には今もこの仕組みなのだろうとは考えられます。
重要なのは、オークションの仕組みとしてはキーワードではなくまず広告が参照され、広告ランクの高い広告が表示される、ということです。検索クエリに一致するキーワードがなければ広告は表示されないのでキーワードも大事ですが、検索クエリに対して関連性の高いキーワードが高いかどうかで広告表示が決まるわけではないということです。
個人的な経験上でも2016~2019年くらいの頃には、キーワードと広告グループ構成とをどうにかするよりも、広告テキストをどう書くか次第で、ヒットする検索クエリも、(アクセス解析で判明できる限りでは)広告表示されるユーザーも、インプレッションシェアもインプレッション数も激変する、ということを何度も経験しました。そのためこの期間ではセミナーでも勉強会でも「キーワード作成とアカウント構成とに時間をかけずにとにかく広告をガンガン作れ、成果の90%以上は広告次第で決まる」とよく言っていました。
また、改めて探して見つけられなかったのですがこの頃、スマート自動入札に関する公式資料のPDFファイルに「アカウント構成は成果に直接的には関係ない」といようなことが書かれていたものがあり、公式にこのメッセージを記載しているのが印象的だったことを覚えています。
しかしこの2~3年は広告テキストのみの変更による変化としては激変というほどの変化を見かけることは少なくなり、公式のメッセージも変化してきたことが確認できます。今も広告テキストはとても大きな要素であることには間違いないですが、他の様々な要素も情報として公開されてきています。
広告テキスト以外に重視される様々な情報が公開されてきた
いつからこういった情報を発信しているのかは正確には存じ上げていませんが(どなたかご存知でしたらぜひ教えてください)、URLからして2022年であろうと見れる公式情報としてのこの資料の中に、とても気になる情報がいくつかあります。
Unlock the Power of Search(PDFへのリンク)
特に7ページ目、
- ユーザーがGoogleで検索すると(中略)関連していると考えられるキーワードをすべて取得します
- 検索語句を、最も関連性が高くパフォーマンスに優れたキーワードにマッチングさせます
- (中略)
- 対象のキーワードを含む各広告グループで、レスポンシブ検索広告クリエイティブシステムによって、ユーザーに合わせて最も高いパフォーマンスが見込めるクリエイティブが自動的に生成されます
検索クエリとキーワードとのマッチングを行った後で、広告を生成する、と書かれています。
恐らくは仕様自体が根本的に変わったということではなく、いくつかの要件がそれぞれ変わったことにより全体的に変化したということかなと見ていますが、公式情報として明確にメッセージを変えてきているところはとても気になるところです。
他にも着目したい情報としては次のことがあります。
- 候補として残っている広告の中から、システムによって関連性と広告ランクが最も高い組み合わせが選択されます
- 関連性は、検索語句の意味、広告グループ内のすべてのキーワードの意味、広告グループ内のランディングページを確認して算出されます
- 検索語句と同一のキーワードがアカウント内にあるか、ないかによってレスポンシブ検索広告の処理のプロセスが異なる(10ページ目)
- 部分一致で考慮されるシグナル
- 広告グループ内の他のキーワード
- 検索履歴
- ユーザーの現在地
- ランディングページ(の内容)
- キーワードによるテーマ設定がより重要に
広告グループ内の他のキーワードが考慮されることは公式ヘルプにも書いてありますが、Unlock the Power of Searchの資料ではどのように考慮されるか少し具体的に書かれています。「salmon socks」という検索クエリの「salmon」は、魚のサーモンなのか色としてのサーモンなのか、これは同じ広告グループの中の他のキーワードが魚のキーワードなのか色のキーワードなのかによって理解できる、ということです。
また、レスポンシブ検索広告の広告ランクや、広告が生成される過程などにもキーワードが影響することがあるように読み取れます。レスポンシブ検索広告には「広告の有効性」という評価があり、これ自体はオークションに直接影響はしないはずですが、目安として広告運用者へフィードバックしています。判定にはいくつかの要素がありますが、機械的にキーワードを見出しに挿入するよう促され、以前よりもよりキーワードを広告運用者に意識させるようになっています。
どの要素が、特に検索クエリを決定づける要素となるのか
個人的には2016年あたりから長らく、基本的には狙った検索クエリで広告を表示するためには広告テキストの作成に注力し、(細かなという意味での)キーワード作成はある程度おおまかにとどめ、キャンペーンと広告グループの構成は、狙いたい検索クエリ以外の理由でしか決めてきていませんでした。
しかし前述の情報のとおり、どうやらキーワードと広告グループ構成は検索クエリを決める(少なくとも以前よりは)重要な要素であるというように読み取れるので、最近ではキーワード作成と広告グループ構成とをいろいろ試してみています。
変数がたくさんあるのと、このためだけの純粋な検証ができるチャンスはそうそうない、レスポンシブ検索広告は細かい分析がほとんどできないので検証がとにかく難しい、というのが正直な感触なのですが、いくつかご紹介します。
検索クエリがどう変わるか試してみた例
※内容は実際のものとは少し変えていますが近しいものです
※わかりやすくするため結果は大まかにシンプルまとめています
部分一致でヒットしていた文字列をキーワードとして追加する
狙い:「早い」「安い」の文字を含む検索クエリのコンバージョン率が高いのでクリック数を増やしたい
変更前
広告グループ | キーワード | 検索クエリ |
---|---|---|
ネット 印刷 | ネット 印刷 | ネット 印刷 |
ネット 印刷 早い | ||
ネット 印刷 安い |
変更後
広告グループ | キーワード | 検索クエリ |
---|---|---|
ネット印刷 | ネット 印刷 | ネット 印刷 |
ネット 印刷 早い | ネット 印刷 早い | |
ネット 印刷 安い | ネット 印刷 安い |
結果:特に変化なし
このケースでは全くといっていいほど、狙った検索クエリの表示回数もクリック数も変わりませんでした。ただ、もともとこれらの検索クエリでクリックを取るための広告は狙って作ってありました。もしその広告がない状態でしばらく広告配信してからキーワードを追加したら結果がどう変わるか、わかりませんが、成果を犠牲にしてまでその検証をするつもりがありません。
ちなみに、こういった実験は数年前によく行ったのですが、たいした変化が起きないのは同じでした。しかし、このように単にキーワードだけを追加して検索クエリのクリック数が増えた事例は他社の知人からは何度か聞いたことはあるので、何かしらの条件次第では変化するのかも知れません。
各地名のキーワードごとで広告グループを分ける
狙い:地名を含む検索クエリはコンバージョン率が高いのでクリック数を増やしたい
変更前
広告グループ | キーワード | 検索クエリ | 広告 |
---|---|---|---|
貸し会議室 |
貸し会議室 貸し会議室 渋谷 貸し会議室 品川 |
貸し会議室 貸し会議室 渋谷 貸し会議室 渋谷駅 貸し会議室 品川 貸し会議室 品川駅 |
広告カスタマイザを使ってキーワードごとに該当する地名の文字を挿入 |
変更後
広告グループ | キーワード | 検索クエリ | 広告 |
---|---|---|---|
貸し会議室 | 貸し会議室 | 貸し会議室 | |
貸し会議室_渋谷 |
貸し会議室 渋谷 貸し会議室 渋谷駅 貸し会議室 宮益坂 |
貸し会議室 渋谷 貸し会議室 渋谷駅 |
広告カスタマイザを使わず地名を記述 |
貸し会議室_品川 | 貸し会議室 品川 貸し会議室 品川駅 |
貸し会議室 品川 貸し会議室 品川駅 |
広告カスタマイザを使わず地名を記述 |
結果:特に変化なし
実際には他にもたくさんの地名の広告グループがあります。また、他にも細かい検索クエリがヒットしていますが、クリック数も、検索クエリの傾向も概ね変化なしでした。
キーワードのテーマごとに広告グループをわけるというのはどういうことなのか、地名単位ではテーマとはならないのか、貸し会議室はどう地名を掛け合わせようとも同じテーマなのか、わかりません。地名に関するキーワードがほんの少数ではテーマとして見ることはできないのかも知れないので、渋谷の広告グループには「宮益坂」を入れてみましたが変化ないどころか「検索ボリュームが少ない」のステータスとなり広告表示対象となりませんでした。
前述の資料の例を見るに、もしかしたら「中央区」の文字を含むキーワードは、「銀座」「大阪市」「福岡市」「札幌市」「さいたま市」「新潟市」のどの文字を含むキーワードと一緒の広告グループに追加するかで、日本のどこの中央区なのかをシステムが判別できるようになのかも知れない、とは考えられます。
検索意図が似ているが意味の異なるキーワードを別の広告グループに移す
狙い:ほぼ資格=仕事という業種だからかクリックされる広告がほぼ一緒、なので同じ広告グループにしていたが、分けてみることでよりその意味合いをシステムが理解し、同じテーマでさらに広い検索クエリにヒットしてほしい
変更前
広告グループ | キーワード | 検索クエリ | 広告 |
---|---|---|---|
◯◯ | ◯◯ 資格 ◯◯ 仕事 |
◯◯ ◯◯ 資格 ◯◯ 仕事 ◯◯ 儲かる ◯◯ になるには ◯◯ きつい ◯◯ 収入 ◯◯ 将来性 |
「◯◯の資格を取得して仕事して安定収入を」みたいな広告 |
変更後
広告グループ | キーワード | 検索クエリ | 広告 |
---|---|---|---|
◯◯_資格 | ◯◯ 資格 | ◯◯ ◯◯ 資格 ◯◯ 仕事 ◯◯ 儲かる ◯◯ になるには |
「◯◯の資格を取得して仕事して安定収入を」みたいな広告 |
◯◯_仕事 | ◯◯ 仕事 | ◯◯ 仕事 ◯◯ 儲かる ◯◯ になるには ◯◯ きつい ◯◯ 収入 ◯◯ 将来性 |
「◯◯の資格を取得して仕事して安定収入を」みたいな広告 |
結果:検索クエリの傾向は特に変わらず、クリック数も特に増えず
ヒットしていた検索クエリは各広告グループごとに概ね別れたものの、どちらにも存在する検索クエリはいくつかありましたので、この2つのキーワードが全く違うテーマとしてみなされていたわけでもないのではないかと考えられます。意味が異なるために細かく絞られたテーマ性にしたからといって結果が大きく変わるわけではないようです。検索クエリことは別として、これらのキーワードとヒットした検索クエリとに合わせた広告をそれぞれしっかり作成して検証して、成果の良い広告が変わってくると、広告グループを違える意味はあるでしょう。結果的にやっぱり同じような広告の成果が良いから広告グループを分けた意味がなかった、という未来も想定できますが。
単一の要素だけで極端に決まることはなさそう
部分一致キーワードにヒットする検索クエリはどう決まるか、その検索クエリでの広告表示とクリックを多く得られるか、それらを決める要素は少し整理すると次のとおりです。
- 部分一致キーワードそのものの内容、意味合い
- 部分一致キーワードが入っている広告グループの他のキーワード
- 広告のテキスト
- ランディングページのコンテンツ
- 検索ユーザーの過去の検索履歴
- 検索ユーザーの現在地
ご紹介した事例はこれらの各要素ごとに純粋に検証できているものではないので、あまり参考にはなるわけではないのですが、一つあるいは少しの要素の変更だけで結果が大きく変わるというものではないのでしょう。いずれかの要素が常に一番重要な要素であるということもないでしょうし、それぞれ複合的、かつケースバイケースで扱われ、結果が導き出されるのでしょう。
狙った検索クエリでクリックを得るためにするべきことは
次のようなことを一つ一つしっかり取り組むしかないのでしょう。
- 狙うべき複数の検索クエリをよく想定する
- 検索クエリの検索意図をしっかり確認、想定する
- 想定した検索クエリを概ねカバーするいくつかのキーワードを作成する
- 似たような意味合い、同じテーマのキーワードで広告グループを構成する。恐らく、細分化すればいいというものではない
- 想定した検索クエリを検索したユーザーがクリックしたくなる広告を作る
- 検索意図を的確に反映していて、広告をクリックしたユーザーにとって見る価値もあるランディングページを作る
以上のことをきちんとすでにきちんと取り組めていれば、そこから多少キーワードを工夫したり、多少アカウント構成を変えたところで、劇的な変化が起きることはそうそうなく、より検索ユーザーに求められる広告テキストとランディングページを作っていくという、地道な改善施策しかないのでしょう。