
最近、「AI時代において、SEOはもうやらなくていいのではないか?」というお問い合わせを、経営層の方からもよくいただくようになりました。
結論から申し上げると、SEOの重要性はむしろ高まっています。ただし、その性質は大きく変わりつつあります。今回は、経営判断に必要な観点から、AI時代のSEOについてお話しさせていただきます。
なぜ今、経営者がAI SEOを理解すべきなのか
多くの企業経営者から「広告費は増え続けているのに、効果が以前ほど感じられない」という声を聞きます。実際、デジタル広告の競争激化により、顧客獲得コストは年々上昇傾向にあります。同時に、プライバシー規制の強化により、これまで効果的だったリターゲティング広告の精度も低下しています。
このような環境下で、改めて注目されているのがオーガニック検索、つまりSEOです。広告と違い、一度構築したコンテンツ資産は長期的に集客し続けます。質の高いコンテンツは、時間とともにドメインの権威性を高め、複利的な効果を生み出します。
さらに重要なのは、AIが情報を生成する際の仕組みです。ChatGPT や Claude、Gemini といった生成AIは、Web上の情報を学習し、検索エンジンで評価の高いコンテンツを優先的に参照します。つまり、SEOで成功している企業は、従来の検索結果への露出だけでなく、AI経由での情報提供という新たなチャネルも獲得できるのです。
「AIが検索を置き換える」という議論がありますが、実際にはAIと検索は補完関係にあります。AIは検索エンジンが蓄積してきたデータを基盤として動いており、その情報の信頼性は検索エンジンの評価に依存しています。だからこそ、SEOの重要性はむしろ高まっているのです。
💡 一度構築したコンテンツ資産は長期的に集客し続けます
従来のSEOにあった根本的な問題とは
従来のSEOといえば、検索ボリュームの大きいキーワードを見つけて、そのキーワードを散りばめたコンテンツを大量生産する、というアプローチが主流でした。「○○ おすすめ」「○○ 比較」といったキーワードで上位表示さえできれば、自動的に集客できるという単純な世界観です。
しかし、この手法には根本的な問題がありました。それは、実際の顧客の検索行動の複雑さを完全に無視していたということ、つまり、市場機会の大部分を取り逃がしていたということでもあります。
以前JADEの記事で紹介した「しいたけ栽培キット」について考えてみましょう。従来のアプローチなら「しいたけ栽培キット」という直球のキーワードだけを狙えばいいと考えるでしょう。しかし、実際にこのキーワードで検索する人は、すでに購買意欲が固まっている、ごく一部の人だけです。これですと、顕在市場の一部のみを対象とした非効率な戦略と言わざるを得ません。
【こちらの参考記事をぜひご一読を】
現実には、最終的にしいたけ栽培キットを購入する人の検索行動は、もっと複雑で多様です。ある人は「子供 食育 家庭」から始まり、「野菜 栽培 室内」を経て、「きのこ 育てる 簡単」にたどり着きます。別の人は「おうち時間 趣味」から「ガーデニング 初心者」を経由するかもしれません。
さらにAI時代になると、この傾向は加速します。なぜなら、ユーザーはAIに対して、より自然な言葉で、より複雑な質問を投げかけるようになるからです。「小学生の子供と一緒に楽しめて、食育にもなる、室内でできる活動を教えて」といった具合に。このとき、AIは内部的に複数の検索を実行し、情報を統合して回答を生成します。単一のキーワードに最適化されたコンテンツでは、このような複雑な情報ニーズに応えることはできませんし、また、拡大する市場機会を捉えることも難しいでしょう。
💡 従来のSEOの問題は、実際の顧客の検索行動の複雑さを完全に無視していた、つまり、市場機会の大部分を取り逃がしていたということ
経営戦略としての「検索ジャーニー」設計
では、どうすればよいのか。私たちJADEが提唱しているのは「検索ジャーニー」というアプローチです。これは、顧客が最終的な目的(購入、問い合わせなど)に至るまでの、すべての検索行動を包括的に理解し、それぞれの段階に適したコンテンツを設計する経営戦略です。
先ほどのしいたけ栽培キットの例で考えてみましょう。購入に至るまでの検索ジャーニーは、顧客開拓プロセスで考えて大きく4つのフェーズに分けられます。
最初は「潜在的ニーズの発見」フェーズです。この段階では「おうち時間を充実させたい」「子供に何か体験させたい」といった漠然とした欲求があります。次に「興味の具体化」フェーズに移り、「室内でできる趣味」「子供と楽しめる活動」といった、より具体的な検索が始まります。
その後「比較検討」フェーズでは、複数の選択肢を天秤にかけます。「家庭菜園と観葉植物どっちがいい」「きのこ栽培は難しいのか」といった疑問を解決しようとします。最後の「購入決定」フェーズでようやく、具体的な商品名での検索が行われます。
重要なのは、これらのフェーズはターゲット設定セグメントによって異なる、ということです。教育熱心な親御さんなら「STEM教育」から入るかもしれませんし、料理好きの方なら「新鮮な食材を自分で」という動機から始まるかもしれません。同じ商品でも、顧客のペルソナによって検索ジャーニーは大きく変わります。
先述の記事で掲載されていたイメージ図を引用します。
横軸を時間の流れとし、縦軸にユーザーの心理や検索ワード、必要なコンテンツイメージなどを記入していく
この検索ジャーニー全体をカバーすることで、潜在顧客との接点を最大化し、競合他社が気づいていない市場機会を捉えることができます。実際、この方法を採用したクライアント企業では、従来の3倍以上の見込み客を獲得し、営業効率の大幅な改善を実現しています。
💡 戦略として「検索ジャーニー」を採用し、従来の3倍以上の見込み客を獲得し、営業効率の大幅な改善を実現する企業も
JADEのフレームワーク戦略で考えるAI対策
私たちJADEは、SEOを「検索エンジン」と「検索体験」の両面から捉える「検索インタラクションモデル」というフレームワークを使っています。このモデルは、検索エンジンがWebサイトをどう処理するか(DCIR)と、ユーザーが検索を通じてどうサイトと接するか(QCLS)を体系的に整理したものです。経営者の方にとっては、経営判断のためのツールとして理解していただいて良いかもしれません。以下の記事では、このフレームワークについて重点的に解説しました。
検索エンジンモデル(DCIR)は、Discover(発見)、Crawl(クロール)、Index(インデックス)、Rank(順位づけ)の4つのフェーズから成ります。AI時代においても、この基本構造は変わりません。むしろ、AIクローラーの増加により、効率的な情報提供構造の重要性は増しています。
一方、検索体験モデル(QCLS)は、Query/Prompt(検索・プロンプト)、Click(クリック)、Land(着地)、Surf(回遊)の4つのフェーズで構成されます。AI時代の特徴は、QueryがPromptに進化したことです。ユーザーは単語を並べるのではなく、自然な文章で質問するようになりました。これに対応するには、コンテンツも自然言語での質問に答える形で構成する必要があります。
このフレームワークを使うことで、自社サイトの課題がどこにあるのか、何を優先的に改善すべきかが明確になります。例えば、せっかく良いコンテンツを作っても検索結果に表示されないなら、それはDiscoverやCrawlの問題かもしれません。表示はされるがクリックされないなら、タイトルやスニペットの問題でしょう。経営判断のためのツールと先ほど書いたのは、投資対効果を最大化する改善優先順位の明示こそが、このフレームワークの特徴のひとつだからです。
このフレームワークでは、リンクビルディングに重きを置かないことも、従来のSEOとの違いになっています。AI時代において重要なことは、リンクの数を増やすことではなく、ブランドビルディング、自社ブランドにとって肯定的な言及を増やすことです。
💡 投資対効果を最大化する改善優先順位の明示こそが、このフレームワークの特徴のひとつ
経営者だからこそ「Googleの構造的優位性」を理解する
経営戦略の観点から重要なのは、AI検索市場の構造を正しく理解することです。現在、メディアでは「AI対検索」という対立構図で語られがちですが、これは本質を見誤っています。
実際の構図は「Google対その他のAI企業」であり、Googleには圧倒的な構造的優位性があります。20年以上かけて構築した検索インデックス、世界最大規模のクロール基盤、そして検索連動型広告による安定的な収益モデル。これらの資産は、一朝一夕には覆せません。
興味深いことに、多くのAI検索サービスは、結局のところGoogleの検索結果をスクレイピングして情報を取得しています。つまり、Google向けのSEOを行うことは、間接的に他のAIサービスへの最適化にもつながるのです。
この構造を理解すれば、「SEO投資は最も確実性の高いデジタル投資のひとつ」だと言えます。広告費は使えば消えますが、SEOで構築したコンテンツ資産とドメインの権威性は、企業の無形資産として蓄積されていくのです。
💡 広告費は使えば消えるが、SEOで構築したコンテンツ資産とドメインの権威性は、企業の無形資産として蓄積されていく
組織として取り組むべきこと
AI時代のSEOで成功するには、組織全体での取り組みが不可欠です。まず重要なのは、SEOを「マーケティング部門の仕事」として矮小化しないことです。
コンテンツ戦略の立案や自社の強みの言語化は、経営層が主導すべき領域です。なぜなら、企業の競争優位性を最もよく理解しているのは経営層だからです。一方で、テクニカルな実装や大規模なデータ分析は、専門性が高く変化も速いため、外部の専門家との協業が効果的です。
成功している企業の多くは、CMO直下にSEO責任者を配置し、四半期ごとに経営会議で進捗を報告する体制を取っています。投資規模としては、売上の0.3〜1%程度が一般的ですが、これは業界や競争環境によって異なります。
重要なのは、SEOを単発のプロジェクトではなく、継続的な改善プロセスとして位置づけることです。生成AIや検索アルゴリズムは常に進化し、競合他社も改善を続けています。一度上位表示したからといって、その地位が永続的に保証されるわけではありません。
💡 SEOを単発のプロジェクトではなく、継続的な改善プロセスとして位置づける
小手先のテクニックではAI時代のSEOは通用しない
AI時代のSEOは、これまで以上に本質的なものになっていきます。小手先のテクニックではなく、真に価値のあるコンテンツを、適切な形で提供することが求められます。
まず取り組むべきは、自社の顧客がどのような検索ジャーニーを辿っているかを理解することです。既存顧客へのインタビューや、Google Search Consoleのデータ分析から始めてみてください。意外なキーワードから流入していることに気づくかもしれません。
次に、その検索ジャーニーの各段階で、自社がどの程度カバーできているかを診断します。購入直前の段階は充実していても、認知段階が手薄になっていることはよくあります。逆に、情報提供ばかりで購入への導線が弱いケースもあります。
そして、優先順位を決めて段階的に改善していきます。すべてを一度にやろうとする必要はありません。まずは最も費用対効果の高い領域から着手し、成功体験を積み重ねながら拡大していけばいいのです。
💡 小手先のテクニックではなく、真に価値のあるコンテンツを、適切な形で提供することが求められる
誠実にビジネスを行っている企業にとってのチャンス到来
生成AIの登場は、SEOの終わりではありません。むしろ、より本質的で価値のあるSEOの始まりです。キーワードの詰め込みや、機械的なコンテンツ量産といった表面的な手法は通用しなくなり、真に顧客の課題を解決するコンテンツだけが評価される時代になります。
これは、誠実にビジネスを行っている企業にとってはチャンスです。自社の強みを正しく言語化し、顧客の検索ジャーニー全体に寄り添うコンテンツを提供することで、持続的な競争優位性を構築できます。
AI時代だからこそ、人間にしかできない深い洞察と、長期的な視点での価値創造が重要になります。SEOは、そのための最も効果的な手段の一つなのです。
