キーワードツール考

AhrefsやMoz、SEMRushなどサードパーティーが提供するキーワード調査ツールの仕組みってどうなっているの?Google公式に比べて便利な点、不便な点は何?についてまとめてみました。

みなさんこんにちは、伊東考(こう)です。

「いつもなんとなくやっていることだけど、そういえば詳しくは知らなかったかも」

な事象にDeep Diveする「考」シリーズの爆誕です(バチバチ)。

記念すべき第1弾は、「キーワードツール考」。

今回は、特にサードパーティー製キーワードツールの謎に迫ります。

ここでいうサードパーティーとは、Google公式ツールに対するAhrefsやMozなどのことを指します。さて、みなさんはサードパーティー製キーワード調査ツールとGoogleキーワードプランナーをどのように使い分けていますか?

「Ahrefsだと、各キーワードの検索ボリューム以外にも様々なオリジナル指標があって便利!」

という人もいれば、

「Googleが公式に出しているツールが一番正確に決まっているから不要」

という人もいると思います。

更には、そもそも「サードパーティーのキーワードツールは、データソースが不透明で社内や顧客に対して説明できないから使えない」から距離を置く、あるいは嫌気する人も少なからずいます。

一方で、海外ではこれらのツールは本当によく使われています。

伊東も欧米のSEO専門カンファレンスに何度か参加したことがありますが、登壇するスピーカーのこういったツールの活用の話は本当に多いです。

ちなみに弊社では、のちほどお話するこの類のツールが持つ「基本的な仕様」や「限界」を理解した上で、補助的に活用しています。

さて、そもそもGoogle純正のキーワードプランナーがある中、どうしてサードパーティーツールが誕生したのでしょうか。それには理由があるのです。

ちょっと歴史を紐解いてみたいと思います。

Deep Diveするぜ!コウ!!(*注)

 

*注:伊東考がある事象に深く潜入する際に発する特別な叫び声。あ、ちなみに伊東周晃とも言います。

キーワードツールの歴史

2015年から2016年にかけて、(広告担当者ではなく)SEO担当者にとっては大変不都合な仕様変更がキーワードプランナーで起こるようになりました。

このあたりの話は、Mozブログの「Googleキーワードプランナーのダーティーな秘密」(2015年)に詳しく書かれていますが、主要なポイントを列記すると

1.広告費をある程度支払ってないアカウントでは、キーワード数をざっくりとした値でしか表示しなくなった(例:1万~10万など)。

2.同じ意図のクエリ群を束ねられ、キーワード個別の検索数が探しづらくなった

などなど。

そもそも長きにわたり、SEOにとって大事なプロセスであるキーワード調査を広告主向けツールに依存していたわけですが、この変化を受けて、「SEOのためのキーワード調査ツールを作ろう」という機運が生まれます。

以下は、Moz創業者のランド・フィシュキンが、Mozを去った後に執筆した書籍『LOST and Founder』の中で、新しいキーワード調査ツールの開発プロジェクトを進めるにあたって、他の経営陣および社内に向けて発したメッセージの一説です。2015年の話。

LOST and Founder(p.188,189) より

1.キーワード調査ツール市場は、Mozがこれまで力を入れてきたリンク分析、ランキング、クローリングのどの領域に比べても競合性がまだまだ低い。

The keyword research tools space was far less competitive at the time than other areas in which Moz had invested product and engineering resources(like links, rankings, and website crawling)

キーワードボリュームデータの不正確性は、私(ランド・フィシュキン)が調査したり、会話をしてきたSEO従事者の間で最も不満の多い事柄だ。

The accuracy (or rather, gross inaccuracy) of keyword volume data was perceived as the biggest challenge and frustration among people I surveyed and talked to.

 

こういった背景があり、サードパーティーによるキーワードツール市場というものが勃興し、Mozは2016年にKeyword Explorerをローンチします。

これは、Mozにとっては久々のスマッシュヒットのプロダクトとなりました(同書より)。今日、この種のツールではMoz、Ahrefs、SEMRushあたりが主要なプレーヤーと言えるでしょう。2016年以降の市場と考えると意外に歴史が浅いですね...。

MozとAhrefsのキーワードツール名称は、たまたま同名(Keyword Explorer)で、たまにややこしく感じます(余談)。

クリックストリームデータの利用

MozやAhrefsが提供するキーワードツールを、Google公式のものと異なる独自なものとしている要素のひとつとして、クリックストリームデータの利用が挙げられます。

これはご存じの方も多いと思いますが、セキュリティ会社が提供するソフトウェアやブラウザ常駐ソフト等を通じて収集される匿名のウェブページ閲覧履歴データにあたります。

このデータを加工して販売している会社があったりするわけですが、MozやAhrefsはそこからデータを購入して、キーワードデータベースを作成したり、補正をしてより”精度の高い” キーワードボリュームデータを提供することに努めています。

Ahrefsのサポートページでは詳細な出典は明示しないものの、これについて説明を行っています。

Googleキーワードプランナーデータとクリックストリームデータを組み合わせて精度の高い検索ボリュームデータを提供しています。

注意)クリックストリームデータは、ソフトウェアやブラウザプラグインを通じて得られる匿名データのことです。

We get existing volume data from Google Keyword Planner, and pair it with clickstream data to create a model that gives very accurate search volumes for almost any keyword.

Note: Clickstream data is anonymized data from the apps and plugins that you add to your browser.

すべての匿名データソースが明らかになったわけではありませんが、少なくともセキュリティソフトのAvastはある時点までは、提供ソースではあったようです。

Avastが同社のデータインテリジェンスサービスのJumpshotを終了したことに関する感想を、Mozを去った後のランド・フィシュキンがブログに書いた中の一節が以下。

AvastのJumshotは、MozやAhrefs、SEMRushなどのツール提供企業にキーワードリサーチを頼っていた中小企業に貢献してきた。

(Jumpshot’s data helped:)Millions of small and medium businesses who use and rely on keyword research and traffic estimation tools from providers like Moz, Ahrefs, SEMRush, and more who re-package Jumpshot’s data

このクリックストリームデータが日本市場の全クエリのうちどの程度をカバーしてくれているかなどの情報は明らかではありません。その意味で確かに不透明さは残り続けます。

したがって、1次ソースにはしづらい悩ましさはあるものの、このユニークなメカニズムによって、さまざまな独自指標が提供されているという面もあります。

便利な点

こういった限界を踏まえた上で、サードパーティーツールの便利な点を個人的な視点でいくつかご紹介したいと思います。Ahrefsを例にお話しします。

キーワードの適合度にこだわれる

キーワードプランナーの場合、近しい意図のキーワードはグルーピングされることがありますが、Ahrefsではグルーピングせずにクエリ毎の検索ボリュームを提示してくれます。検索の際に使われる言葉によりこだわりたい場合は、これはありがたい仕様です。

 

Ahrefs公式より(https://help.ahrefs.com/en/articles/72571-how-accurate-is-keyword-search-volume-in-ahrefs

[seo][search engine optimizaton][search engine optimisation]の検索ボリュームデータは、キーワードプランナーだと[seo]にまとめられてしまいますが、Ahrefsでは上記のように束ねられずにそれぞれ個別のボリューム数を確認することができます。

また、キーワードプランナーはある程度近しい値のものは同じキーワード数の枠(Bucket)の中に収めるため、細かなボリュームの差異が分かりづらい場合があります。

以下は、[ぐるなび ログイン][ぐるなび 管理画面]のキーワードプランナーでの数値ですが、どちらも月間検索数が9900と同数です。

[ぐるなび ログイン][ぐるなび 管理画面]の検索数は同数

Ahrefsでは、[ぐるなび ログイン]は9000、[ぐるなび 管理画面]は2100と明確な差があります。

Ahrefs無料版より(https://ahrefs.com/ja/free-seo-tools

[ぐるなび ログイン]のクエリを使うのはおもにユーザー会員で、[ぐるなび 管理画面]は契約飲食店であり、検索者の母数は、ユーザー>契約飲食店ということを考えると、雑に同数としてまとめられるよりも、実態の傾向が反映されているようにも思われます。

クエリの競合性・難易度の判定

キーワードプランナーの競合性は、広告における競合性の判定指標のため、それが高い場合はビジネスバリューが高いクエリとは言えそうですが、自然検索におけるそれとは結び付きません。

その点、Ahrefsが提示する難易度指標は、リンクの質・量、ドメインの力、SERPフィーチャー有無などに基づいて計算されているため、「SEOに寄り添った競合性指標」と言えると思います。

これもあくまで目安の指標ですが、短時間で施策取り組みの見立てを作るには便利なものです。

Ahrefs無料版より(https://ahrefs.com/ja/free-seo-tools

不便な点

ツールと正しく向き合うためにも、不便な点も列記しておきましょう。こちらも個人的な所感です。

ニュース性の高いクエリが弱い

11/29時点で「全国旅行支援」の検索数が10以下です。月間検索数のデータベース更新が1ヶ月単位なので、Newsyなクエリ対応は別のツールを検討したほうが良さそうです。ニュースサイトやUGC系サイトのトラフィック推計が大きくずれるのは、このあたりも要因があると思います。

 

Ahrefs無料版より(https://ahrefs.com/ja/free-seo-tools

 

この領域はやはりGoogleトレンドが良いですね。

Googleトレンドの[全国旅行支援]の結果。社会の動きを反映できている。

 

ローカライズド検索のLPが実態を反映しない

地域の検索意図を持ちつつ、地域名を含まず単体で検索されるケースはスマホからの検索の増加とGoogleの地域判定精度の向上に伴い増えています。

[居酒屋][カフェ][ランチ]といった検索もそうですし、[ドトール]も「近くのドトールを探したい」という意図も含まれていたりします。

大規模な地域サイト等では、例えば[ランチ]で検索したときに流入が発生するランディングページの種類は1000以上だったりします。さまざまな地域からこのクエリで検索が発生するため、LPもそれに合わせて変動します。

ですが、Ahrefsではこういうタイプのクエリの場合も、Site ExplorerツールなどではLPが一つしか提示されないため、実態を反映はしていません。ツールの仕様でもあり、認識しておいたほうが良いポイントの一つと思います。

Discoverトラフィックの未反映

これはキーワードツールの話ではないですし、Ahrefsに文句を言っても仕方ないですが、せっかくなのでコメント。

クエリごとのSERPデータを大規模に収集したものをベースにトラフィック推計をしていますが、検索結果以外のトラフィックは捕捉できていません。

ニュース・雑誌系などフロー情報の多いサイトでのDiscover流入は無視できないレベルになってきていますが、Ahrefsでの推計が大幅にずれるもう一つの要因です。

こういったタイプのサイトのトラフィック計測比較で安易にAhrefsを用いると見立てが外れます。

Discover流入をサードパーティーツールで捕捉するなら、SimilarWebあたりは可能だったりするのでしょうか?弊社では使っていないため、ご存じの方いたら教えてください。

まとめ

こんな感じで、サードパーティー製のキーワード調査ツールを「考」してみました。個人的にはこの類のツールを物色したりするのは大好きで、展示会や海外カンファレンス行った時にもブースでいろいろ話を聞くのは楽しみの一つです。

うまく活用すれば、業務の生産性を高めたり、新しい仮説を考えたりするのにものすごく有益なので「基本的な仕組み」や「できないこと」を理解した上で活用するが吉だと思います。

ではでは、今日も楽しくキーワード調査しましょう!コウ!!