検索広告で集客をしているとよく頭を悩ませることの一つとなるのが、自社名や自社商品名などである固有名詞で検索されたときに表示する広告、つまり指名検索の広告です。
- 指名検索広告で予算の多くを使ってしまって新しい施策に費やせない
- 認知度を上げれば上げるほどクリックが増えてお金がかかる
- 自社名での検索なのにお金がかかるなんて釈然としない
用意できる広告予算の大半を指名検索広告に使ってしまうこともありますし、すでに知ってくれている人に対してアプローチすることにお金を使ってしまって、まだ自社を知ってくれていない、新たな人を呼び込む施策に積極的に取り組めないなんていうもどかしさを覚えることもあります。
指名検索広告のコストを下げることができないか、無駄にお金を使っていないか、次に紹介する手法と合わせてぜひご検討ください。
完全に停止して自然検索でカバーできないか検討し、試してみる
自然検索1位に表示されていて、競合他社の広告は何も表示されていなければ一度検討してみるのはおすすめです。検索広告を止めた分、自然検索でカバーできればよし、ということになります。コストを減らすというよりゼロにするという極端な方法ですが、まずこれがよさそうか、よくなさそうなら他のどの方法がちょうどよいか、と考えていくと検討を進めやすいと思います。
実施する前にも後にも、次のことを注意してよく見ましょう。
- 検索広告(Google 広告)
- どういった検索クエリでクリックを取っていたか
- 1日あたりどれだけクリックが取れていたか
- 実際にどの競合他社が表示されていたか(オークション分析画面で確認)
- Google サーチコンソール
- 指名検索のクエリのCTRはどれだけ上がったか
- 検索広告でクリックを取っていた検索クエリをカバーできたか
- Google アナリティクス
- ほぼ指名検索でのセッションであると言える google / organic & ランディングページ があるか、サーチコンソールを参考に確認
- そのセッションがどのくらい増えたか
- google / cpc で減ったセッションの分が、google / organic で増えているか
- ほぼ指名検索でのセッションであると言える google / organic & ランディングページ があるか、サーチコンソールを参考に確認
気をつけるべきことは、数値を確認するツールが違いますしその期間で発生した外的要因も絡むため、完全な検証は難しい、ということです。検索広告のクリックとサーチコンソールのクリックとGoogle アナリティクスのセッションはすべて全く違う仕様なので、それらの変化を単純に比較して参考にすることはできません。様々な視点から複合的に見て判断することになります。
また、次のことも注意して見てみましょう。
- 検索広告と自然検索とでランディングページは同じか、違うか
- 違うなら、それによる結果の悪化はないか、あるか
- クリックされていた検索広告の見出しと広告テキストと自然検索の見出しとは何か違うか
- 違うなら、それによるクリック後の行動の変化は考えられないかどうか
- 競合の検索広告が表示されていないか、あるいは増えていないか
仮にクリック数が落ちなかったとしても、競合を知られるようになってしまったり、クリック後のサイト閲覧状況に変化が起きたら、数値にはしづらいところに悪影響を及ぼすことはあるかも知れません。
ところで、検索広告を完全に止めるというのはなかなか極端なことに思えるかも知れません。しかし、競合の広告も表示されなく、明らかに自然検索のCTRが上がりクリックが増え、結果的にどこをどう見ても問題がないから指名検索の広告を止めたままにしている、という実例は弊社が請け負っている案件では何件かあります。ついつい指名検索の広告はとにかく予算上限なしで表示してしまいがちですが、必ずしもそうあるべきというわけではありません。
とはいえ完全停止するべきと言えるケースがそう多いわけではありません。状況によりけり、次以降にご紹介する他の様々な方法と合わせてご参考ください。
少しずつ入札単価を下げてみる
自社の指名検索キーワードで検索してみたときに競合他社の広告が表示されるようであれば、自社の検索広告を可能な限り最上部に表示することでできるだけ競合他社の広告をブロックしようと考えることは多いことかと思います。しかし、自社の広告を常に最上部に表示することを少しだけ諦めたほうが、失うクリックよりコストメリットのほうが大きいということがあります。
次の表は、ある指名検索キーワード(完全一致)の入札単価を下げたことで起きた、実際の変化です。
期間 | 平均CPC | CTR | 検索広告のインプレッションシェア | 検索結果ページの上部インプレッション | 検索広告のページ最上部インプレッション シェア |
---|---|---|---|---|---|
前々月 | 188円 | 31.28% | 100.00% | 100.00% | 83.99% |
前月 | 135円 | 28.38% | 97.55% | 97.54% | 63.17% |
変化率 | -28.24% | -9.28% | -2.45% | 2.46% | 24.79% |
CPCは30%近く下がりながら、ほぼ常に検索結果の上部に表示されたという結果となりました。最上部に表示された割合(ページ上部に表示されたときに最上部に表示されたかどうか)は24.79%落ちましたが、CTRの低下具合からすると、実際に失ったクリックはそこまでではありませんでした。
失ったであろうクリックがあるにはあるので機会損失は発生しているのですが、それによって削減できたコストは大きいとも考えられます。機会損失とコストメリットとを単純に天秤にかけることは難しいですが、指名検索広告の費用の総額が大きければ予算を捻出するためには使える方法となります。この例では約25%、指名キーワードのコストを下げられました。もともとが100万円だったのであれば25万円捻出できるということで、この費用を新たな施策に投じることができて将来の見込み顧客を増やす可能性が上がるとすれば、この価値は高いでしょう。
必ずこの事例のような結果になると保証できるものではありませんが、最上部インプレッションシェアを数%下げるだけでCPCはそれよりも落ちる傾向にあることは多いです。言い換えると、指名検索のクリックを1クリックたりとも逃さないようにするときのコストは大きくなるということです。どの広告アカウントでも必ずこうなるというわけではないですし、変化の度合いはそれぞれです。試す際はぜひ各数値の変化に注意しながら、少しずつ下げながらバランスの良いポイントを見つけるのがよいでしょう。
また、入札単価を下げたら競合他社の広告表示回数が増える可能性も考えられます。競合他社(ドメイン)のインプレションシェアがどのくらいで、それが上がったかどうかは、オークション分析画面で確認できます。
可能な限り既存顧客への広告配信をしないようにする
既存顧客に検索広告をクリックしてもらう必要がないなら、既存顧客だとみなせるユーザーには広告配信をしないようにすることも検討してみましょう。
既存顧客である、あるいは一度コンバージョンに至ったユーザーであるということを100%確実に判別することはほぼ不可能です。100%を目指すのではなく可能な限り最大限に判別する、判別する条件を徹底的にピックアップして設定してほんの少しでも多く判別し、判別できたユーザーは広告配信を除外できるようにする、ということになります。
例えば、次のような条件で除外します。
- オーディエンスセグメント(リマーケティングリスト)
- 特定のタグ
- コンバージョンタグ
- 特定のURL
- コンバージョンページのURL
- 既存顧客でないと表示できないページのURL
- カスタマーマッチ
- 既存顧客のメールアドレス
- ユニバーサルアナリティクス及びGA4によるオーディエンスリスト
- 目標完了
- コンバージョンのイベント
- トランザクション
- 既存顧客でないと表示できないページのURL
- 既存顧客でないと検索しないキーワード
- 特定のタグ
- キーワード
- 既存顧客でないと検索しないであろうキーワード
- 例
- ○○ ログイン
- ○○ パスワード変更
- 例
- 既存顧客でないと検索しないであろうキーワード
同じような条件でもカウントされる具合は違うようです。とにかく考えられる限り設定しておくといいでしょう。同じGoogle 広告のコンバージョンでも、gtagでの計測とGTMで設定するコンバージョンタグでの計測とでも数値は異なることがあるくらいです。
上記の例はGoogle 広告のもので、Yahoo!広告には使えないものがたくさんあります。Yahoo!広告にはYahoo!広告で実施できる内容のみを設定することになります。
既存顧客への広告配信だけコストを下げる
既存顧客に広告を配信しないのではなく、配信はするがコストを抑えるべきというケースもあります。例えば、指名検索キーワードで検索をすると競合他社の広告が出てきて、既存顧客にそれをできるだけ見せたくない場合です。
まず、前述の方法と同様に既存顧客であろう条件を作ります。そして、次のように設定します。
広告グループ | オーディエンスの設定 | 入札単価 |
---|---|---|
指名検索_新規顧客向け | 除外:既存顧客(とみなせる条件) | 高め |
指名検索_既存顧客向け | ターゲティング:既存顧客(とみなせる条件) | 低め |
後者の入札単価は低めにしても、確実に既存顧客と判別できたユーザーにしか配信されないためかクリック率がかなり高めになる傾向がよく見受けられ、30%~50%ほどになることもよくあります。そのため低い入札単価でも広告ランクが高くなり、インプレッションシェアもかなり高くなることがあります。新規顧客向けの1/10の入札単価にしても、インプレッションシェアと上部インプレッションシェアが新規顧客向けとほぼ変わらない、というケースもありました。
つまり、既存顧客向けに配信する検索広告は、かなり低いコストで充分に配信できる可能性がある、ということです。
また、広告グループを分けることで配信できる広告を変えられるということもメリットです。
例えば次のようなことができます。
広告グループ | 広告 | リンク先 |
---|---|---|
指名検索_新規顧客向け | 初めての方向け | 初回購入者向けLP |
指名検索_既存顧客向け | 会員の方はこちら | ログインページ |
既存顧客向けにコストを抑えつつ、既存顧客本人は求めるページにすぐに訪問することができて助かる、ということにもなります。
厳密には、前者は確実に新規顧客であるというわけではなく既存顧客であると判別できなかったユーザーで、後者は既存顧客と判別することができたユーザーです。一部の既存顧客は前者にヒットしてしまい、完全に切り分けられるわけではありませんが、それでもこの手法は大きなコストメリットをもたらせる可能性のある、とてもおすすめの方法です。
指名検索キーワードに対応するページを用意して自然検索でカバーする
指名検索キーワードで検索したときに自社の検索広告を表示していても、自然検索1位にも表示された自社の検索結果のクリック率は多くの場合高い傾向にあります。つまり、指名検索といえる検索すべてにおいてとにかく1位に表示されていれば、検索広告はあまりクリックされずにコストがかかりにくいものともなります。検索広告を止めるか費用を下げるかするためにも必要なことで、やはり自然検索1位には表示しておきたいものです。
例えば、次のキーワードで検索してみて、自然検索1位に自社サイトが表示されるか、どのページが表示されるか確認し、改善するべきことがないか調べてみましょう。
- 自社名で検索してトップページが表示されるか
- 自社商品名で検索して商品ページが表示されるか
- 「{自社名} 料金」で検索して料金ページが表示されるか
- 「{自社名} 口コミ」 で検索してお客様の声ページやレビューページなどが表示されるか
- 「{自社名} 求人」で検索して採用ページが表示されるか
表示されない場合はページを作成したり改善したりすることを検討してみましょう。
その方法はケースバイケースで多岐に渡るのでここでの紹介は省きますが、基本的にはそのキーワードで検索したときにそのユーザーが知りたい情報をきちんとわかりやすく載せているか、その内容のためのページになっているかを意識してページを作りましょう。
その他いくつかの注意点
以上、ご紹介したような方法を検討や実施などする際は、次のことに注意してください。
- オークション分析は自社広告を表示していないと確認できない
- 指名検索で競合他社の広告がどのように出るかは検索する人によって大きく違う
- インプレッションシェアの指標は似たようなものがたくさんあってわかりづらい
自社の指名検索キーワードで検索して競合他社の広告が出るか、そのボリュームがどのくらいかは重要な観点です。これを分析するためにはGoogle 広告の管理画面で確認できるオークション分析が役立ちますが、これは自社である程度以上対象のキーワードで広告を配信していないと確認できません。自社の広告を完全停止した場合は実際に検索してみて競合他社の広告が表示されるかどうか目視で確認するしかないですが、少し検索してみて広告が表示されないからといって競合が表示されないものだと断定することはできません。検索広告は、人によって表示されるものが大きく異なることがあります。特に、事前の検索行動には大きく影響されます。一度自社名で検索して競合他社の広告が表示されなかったら、自社商品を指し示す一般名詞で検索したり競合名で検索したりして、競合サイトの閲覧をたくさんしてみてから、自社名で検索してみてください。結果が大きく変わることがあります。コンバージョンする見込みが高いであろう人に広告が表示されることが多いので、そのように取れる行動をしたら変わることがある、ということです。
いずれにしても目視確認はしっかりとするべきです。実際に表示されたときにどのように感じられるか、競合他社がなんと訴求しているか、その中で自社の広告はどうあるべきか、数字からは読み取れないことを確認して考えるのも大切なことです。
インプレッションシェアは、指名検索をしたときに自社の広告がどれだけ表示されているかを確認するのに役立つデータです。しかし似たような名前がたくさんあってややこしいので、公式ヘルプページでしっかり説明を読んでおきましょう。
また、そもそも競合他社の広告が出るのはなぜなのか、商標での検索なのに他社の広告が出るのは問題ではないのか、この辺りの背景や説明については過去に記事を書きましたのでよろしければご参考までにご覧くださいませ。
指名検索の広告も何のために配信するのかよく考えて扱おう
広告を出稿するには意味がなくてはなりません。何のために実施するのか、プロモーション全体の中で何を担うのか、よく考えて決めて出稿するものです。
指名検索の広告も例外ではなく、なぜ出稿するのか、いくらで配信するのが適切なのか、目的を持って取り組まなければいけません。単に広告管理画面上のコストパフォーマンスをよく見せるために配信するものではありません。
他でカバーできることはないのか、わざわざコストをかけて配信する理由は何なのか、他に割り振るべきところはないのか、誰に何と伝えるために見せるべきものなのか、よく考えて取り組みましょう。