コンテンツマーケティングを飛躍させる「オーディエンス・ストラテジスト」という職能

コンテンツマーケティングは、戦術かビジネスモデルかを考えることを通じて、新しいキャリアとしての「オーディエンス・ストラテジスト」というコンセプトについて考えてみました。

JADEの伊東です。

コンテンツマーケティングインスティトゥート (以下CMI)が最近コンテンツマーケターのキャリア・給与についてのレポートを公開したのですが、「現在の仕事を楽しい」と捉える回答者が半数以上いる一方、67%が「次の仕事を探している」という結果が出ていました。

コンテンツマーケターのキャリアラダーは確立されたものがあるわけではありません。

専業パブリッシャーの場合はそうではないかもしれませんが、企業内オウンドメディアなどはまだまだこれからでしょう。

この記事では、コンテンツマーケターのキャリアに関するお話ができればと思います。

これを考えるにあたり、まずコンテンツチームはコストセンターなのか、プロフィットセンターなのか、ということについて考えてみたいと思います。

コンテンツマーケティングは戦術ではなくビジネスモデル

今年のコンテンツマーケティングワールド2日目夕方のキーノートで登壇したアマンダ・トドロビッチ(Amanda Todorovich )氏は、オハイオ州の医療機関クリーブランドクリニックに所属し、Health Esssentials Blogを核としたコンテンツマーケティング戦略をけん引する中心的存在で、本カンファレンスではおなじみの方です。

彼女の10年の歩みを振り返るセッションの中で使われたスライドの一つが上記写真にある ”Content Marketing is not a tactic. It’s a business model.(コンテンツマーケティングは戦術ではなく、ビジネスモデルである)” でした。

ビジネスモデルである、とは、どういうことでしょうか。

以下の写真をご覧ください。

こちらは、同カンファレンスでジョー・プリッツィ(Joe Pulizzi)氏により示されたHealth Essentials Blog が生み出す複数の収益モデルのイメージ図です。

中心にあるのがHealth Essential Blog

つまり、クリーブランドクリニックは本業の「地域の患者を診察して対価を得る」だけでなく、コンテンツを通じ「全米のオーディエンス」とつながりその関係価値を新しい収益源につなげており、それを以て「ビジネスモデル」と述べているのです。

ちなみに、これに関するお話は、スマートニュースさん運営のメディア Media × Tech に「『そこに愛はある』と言えるコンテンツマーケティングは、いつしかビジネスモデルになる」というタイトルで寄稿させていただいた時に少し書かせていただいております。[コンテンツマーケティング 愛] とGoogle検索していただければ3位あたりにヒットしますので(1位ちゃうんか!)よろしければぜひご覧ください。

アマンダさんによる熱いセッション。表情も自然とパンチ効いた感じになりました

コンテンツマーケティングの機能整理4象限

さて、コンテンツマーケティングの果たす機能について少し整理してみます。

以下の図は、CMIのオンデマンド教育プログラム(Content Marketing University; 以下CMU)で用いられている「コンテンツマーケティングのオペレーションモデル」についてのチャートを、私のほうで咀嚼したものです。

  • 横軸が組織内の単独機能として存在しているか、統合されたものになっているか
  • 縦軸が社内に向いた(内向きの)存在か、社外に向いた(外向きの)存在か

を表しています。

コンテンツマーケティングのオペレーションモデル
  • プレイヤー:
    • 単機能、社内向け
    • 社内エージェンシー的存在として、他部署から求められるチラシやウェブコンテンツを制作する
  • プロダクト:
    • 単機能、社外向け
    • オウンドメディアなどを通じて、オーディエンス構築やリード獲得を行う
  • プロセッサー:
    • 組織的統合、社内向け
    • 運用の統一ルールを策定する、サイト運営のガバナンスを構築する
  • プラットフォーム:
    • 組織的統合、社外向け
    • 他の組織とも効果的に連携しデータ等も共有され、プロフィットにつながる活動を行う

企業がコンテンツマーケティングで目指すものや予算・人員によりこれらの領域への資源配分はさまざまです。

ある取り組みではリード獲得に重きがおかれ(Productモデル)、別の取り組みではイベントで配布するチラシやスライドなどの活動がメイン(Playerモデル)、あるいはProductとPlayerのハイブリッドの役割を担うこともあります。

クリーブランドクリニックは、現在80人からの組織になっており、この4つの象限すべてにリソースを割り当てて自走する組織体になっていると考えてよいでしょう。

そして、プラットフォーム化した現在、同クリニックのマネタイズエンジンとなっているわけです。

企業におけるコンテンツマーケティング

企業においてマーケティング担当者が、オウンドメディア等を活用したコンテンツマーケティングを進めていく際、いま述べた「ビジネスモデル化」「プラットフォーム化」という話はなかなか登場しないものです。

なぜなら、各企業にはすでに確立されたビジネスモデルやゴールがあり、それを達成する「手段」のひとつとしてコンテンツマーケティングが採用されることが通常で、新しい収益源を作るために始めるといった計画で進むことは稀です。

アナリティクスツールで分析する際もすでに何かしらの「コンバージョン」が設定されており、その指標を最大化するためにどういう施策をコンテンツとして展開できるかを考えます。

これは全くもって真っ当なことである一方、少しネガティブな言い方をするとそれに縛られる限りにおいてコンテンツマーケティングは新しい「代替の広告手法」のひとつであり、他の手法との獲得パフォーマンスの比較の中だけで評価される存在となるでしょう。

企業でコンテンツマーケティングを継続することの難しさの一つがこの抑制的な状況なのではないかと考えます。

ジョー・プリッツィ氏とロバート・ローズ氏の共著「Killing Marketing」では、多くのコンテンツマーケターが自分たちの先入観に縛られて抑制的(Hold Back)になっている状況を克服し、コンテンツマーケティングのもつプロフィットセンターとしての価値に目を向け、取り組んでいくための考え方やアドバイス、事例が語られています。

In other words, what if everything we know to be true about marketing is actually what's holding back our business? (別の言い方をすれば、もし自分たちが真実だと信じているマーケティングに関するあらゆることが、実際には自らのビジネスの成長を抑え込んでしまっているいるとしたらどうだう?)

(Killing Marketing イントロダクションより)

 

プロフィットセンター化に向けて必要な視点

では、Cleveland Clinicの事例のようなコンテンツマーケティングをより直接的な収益性のある取り組みに進化させていくにあたって、どのような考え方が必要になるでしょうか。

私は、「自社の製品やサービスを買わなかった(コンバージョンしなかった)人たちをも顧客」として扱い良い関係を構築し続ける、という考え方にヒントがあると思っています。

CMU教材にはAudience vs Buyers というタイトルの学習モジュールがある

上の図は先に述べたCMUの教材スライドの一部だが、このようにオーディエンスとバイヤー(購入者)を対比的にとらえ、オーディエンスをある意味、単なる購入者よりも価値のある存在であると説明しています。

その含意はさまざまなものが考えられますが、ここでは2つお話したいと思います。

1)自社のオンラインプレゼンス成長に影響を与える

自社のオウンドメディアのオーディエンス全体のうち購入者は通常ごく一部ですが、非購入のオーディエンスの中にはコンテンツをシェアして広めてくれる層がいたり、毎回必ず読んでくれるエンゲージメントの高い層がいます。

今、GoogleやTwitter、LinkedInなど多くの主要なプラットフォームはユーザーのプラットフォーム上でのエンゲージメントデータを分析して、良質な体験を提供しているコンテンツや投稿を更により多くのユーザーに届ける傾向にあります。

以下は、インスタグラム公式アカウントでの「フィード表示順序の重視ポイント」についてのTwitter投稿です。

こう考えると、非購入オーディエンスとの良い関係づくりは、ただナーチャリング施策というだけでなく、自社サイト・ブランドのオンラインプレゼンスを高めることに寄与する重要なアクティビティと捉えるべきものです。

大多数を占める非購入オーディエンスの持つウェブプレゼンスへの影響力

2)今とは異なる別のビジネスモデルにとっての購入者となる

もう一つは、「今の非購入者」は、「今のビジネスモデル」との相性においてそうなっているだけで、別の的確なビジネスモデルを構築できれば、それに対しては購入者になる可能性があるという点です。

オーディエンスは見方を変えればポテンシャルバイヤーでもある

「Content Inc.」の中で提示された「Content Inc. Revenue Model」は、オーディエンスニーズの理解を深めることで、それに対応した「複数」の収益ソースを見つけることがコンテンツマーケティングの目指すべきひとつの道として説いています。

Content Inc.モデルでは、ロイヤルオーディエンスを核に複数のレベニューストリームを想定している(記事より引用)

オーディエンス・ストラテジストが必要だ

ここで新しいキャリアとしてのオーディエンス・ストラテジスト(Audience Strategist)です。

今すでに確立しているビジネスモデルにとらわれることなく、ニュートラルに自社のオーディエンスを観察し、その価値をどう最大化できるかを考えて実行する新しい職能、それがオーディエンス・ストラテジスト。

ローズ氏は資産としての「コンテンツ」と「オーディエンス」についてこのように語っています。

We have spent the last two decades focusing on how to structure, flow, adapt, and optimize the usability of content in digital interfaces. And while this skill is more needed than ever, the most valuable asset that marketers manage lies beyond the content.

It’s the subscribed audience itself. Someone needs to manage it.

引用:Audience Strategist: The New, Critical Role on Your Content Team

意訳すると、「過去20年コンテンツマーケティングの仕事においては、さまざまなチャネルやフォーマットが登場するたびに、コンテンツを適応させ最適化して届けることに多くの時間が割かれてきた。今後もこのようなコンテンツ資産の有効利用のための取り組みは必要であるものの、それ以上に必要な活動がコンテンツの先に存在しており、それは、オーディエンス(Subscribed Audiences)資産の戦略的活用である」。

職能的な観点で解釈すれば、これまでのコンテツマーケティングにおいては「コンテンツ・ストラテジスト」が発展してきましたが、「オーディエンス・ストラテジスト」ともいうべき存在がこれからは重要な役割を担うだろうと考えます。

オーディエンス・ストラテジストは、オーディエンスの「構築」から、「セグメント」「オーディエンスの価値定義」「オーディエンスデータの組織内統合」「計測」などを業務の視野に入れ、オーディエンスをこれまでと異なる「新しい視点」でとらえる立場です。

コンテンツマーケティングに新しい風をもたらし、プロフィットセンターとしての可能性を追求するこの職能、ラダーとして私は魅力的だと思うのですが皆さんいかがでしょうか。

JADEでは11月から導入します。

皆さんの考えるコンテンツマーケターのキャリアアイデアがありましたら、ぜひTwitterなどで教えてください。

 

締めの言葉:

"コンテンツマーケティングにあるのはゴールではなく、方向性である(Not a goal, but direction)"

by 冒頭で紹介したAmandaさん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が引き締まります!