「ユーザーがどのボタンをクリックしているか分からない」「コンバージョンに至るまでの行動が見えない」「データはあるけれど、具体的な改善点が見つからない」—— そんな悩みを抱えていませんか?
多くのWebサイト運営者が直面するこれらの課題は、適切なイベント計測によって解決できます。Google Tag Manager(GTM)とGA4を組み合わせることで、ユーザーの細かな行動まで正確に把握し、データに基づいた改善施策を実行できるようになります。
本記事では、実際の設定手順を交えながら、イベント計測の基礎から応用テクニックまでを解説します。複雑に見えるタグ管理も、基本的な仕組みを理解すれば、開発者でなくても導入・運用が可能になります。適切な計測設定により、「なんとなく」ではなく「データに基づいた」サイト改善を始めましょう(こちらの記事は、JADEの社内レクチャーをもとに作成しました)。
【もくじ】
- Webサイトの基本構造とタグの関係
- Google Tag Managerの基本
- GA4のイベント計測設定
- カスタムディメンションと指標の活用
- GA4での効果的なデータ分析
- データ活用を最大化する設定のコツ
Webサイトの基本構造とタグの関係
Webサイトは主に3つの要素で構成されています。HTML、CSS、そしてJavaScriptです。これらの関係を理解することが、タグ管理の第一歩となります。
建物に例えて説明すると、以下のような役割分担になります。
HTML(構造):建物の基礎や間取りにあたる部分です。テキストやリンクなどの要素がどこに配置されるかを定義します。
CSS(装飾):建物のインテリアや外装に相当します。文字のフォントや色、レイアウトなどの見た目を指定します。
JavaScript(動作):エレベーターのボタンを押すと動く、カードキーをかざすとドアが開くといった、インタラクティブな機能を担当します。ユーザーのアクションに反応して動的な処理を実行する部分です。
Google Tag Manager(GTM)で管理するタグは、基本的にはすべてJavaScriptで書かれています。これらのタグは、ページの閲覧やボタンのクリックなど、特定の条件が満たされたときに実行されます。
従来のタグ管理の課題
従来の方法では、各広告プラットフォームやアナリティクスツールのタグを個別にHTMLに埋め込む必要がありました。この方法には以下のような問題があります。
- 運用の手間:タグの追加・削除のたびに開発者への依頼が必要
- パフォーマンスへの影響:複数のタグがサイト速度に悪影響を及ぼす可能性
- 管理の複雑さ:タグが増えるほど管理が困難になり、ミスが発生しやすい
- 変更の難しさ:マーケティング施策の変更に柔軟に対応できない
GTMによる解決策
これらの問題を解決するのがGoogle Tag Managerです。GTMを導入すれば、一度タグコンテナをサイトに設置するだけで、あとは管理画面から様々なタグの追加・削除・変更が可能になります。
開発者に依頼することなく、マーケティング担当者が直接タグの設定を変更できるため、施策のスピードアップと運用コストの削減が同時に実現できます。
Google Tag Managerの基本
Google Tag Managerでは、主に3つの要素を理解する必要があります。タグ、トリガー、変数です。
タグとは
💡タグは「何を」実行するかを定義するコードです。Google アナリティクスの計測タグや、広告のコンバージョンタグなどがこれにあたります。
トリガーとは
💡トリガーは「いつ」タグを実行するかの条件を定義します。ページの読み込み時、特定のボタンがクリックされた時、フォームが送信された時など、様々な条件を設定できます。
変数とは
💡変数は「どのような情報」を取得・利用するかを定義します。URLやクリックされた要素のテキスト、カスタムで定義した値などを取得できます。
また、常に同じ値を返す「定数」という変数のタイプもあります。例えば、GA4の測定IDのような、複数のタグで共通して使う値は変数として定義しておくと便利です。
タグを作成する際に毎回同じ値を手入力するのは非効率で、入力ミスのリスクもあります。変数として定義しておけば、複数のタグで参照でき、値の管理も一元化できます。このように、様々な設定を管理・運用できる点もGTMのメリットと言えるでしょう。
GA4のイベント計測設定
GA4でイベントを計測するには、主に2種類のタグを理解する必要があります。GoogleタグとGA4イベントタグです。
Googleタグの重要性
Googleタグは基本情報を収集する最重要タグです。ページビューやユーザーがセッションを開始した時の基本情報をすべて取得する役割を担っています。このタグは必ず最初に発火するように設定する必要があります。
もし他のカスタムイベントがGoogleタグよりも先に発火すると、流入経路が不明になったり、必要な情報が「not set」と表示されたりする問題が発生します。
GA4イベントタグの作成手順
- 測定IDの設定 まずGA4の測定IDを確認します。これはGA4の管理画面のデータストリーム設定で確認できます。効率化のために、この値は変数として定義しておくことをお勧めします。
- イベント名の命名 イベント名は半角英数字で命名することを推奨します。日本語で作成すると、Looker Studioでの表示や他の機能でエラーが発生する可能性があります。また、「google_」や「firebase_」などの接頭辞で始まるイベント名は予約語となっているため使用できません。詳しくはヘルプページをご確認ください。[GA4] イベントの命名規則 - アナリティクス ヘルプ
- トリガーの設定 いつイベントを発火させるかを定義します。ページ閲覧時、クリック時、フォーム送信時など様々な条件を設定できます。
以下は、特定のリンクがクリックされた時に発火するトリガーの例です。
- トリガータイプ: クリック - リンクのみ
- 発火条件: ページURLに特定の文字列が含まれる AND クリックURLに特定の文字列が含まれる
しかし、個別のURLごとにトリガーを作成するのは効率的ではありません。より柔軟な方法として、HTML要素の親要素に基づいたトリガーを作成できます。
データレイヤー変数の活用
より高度なトリガー設定には、データレイヤー変数を活用する方法があります。データレイヤーとは、GTMが管理するJavaScriptの一種で、Webサイト上のイベントや情報を保持する仕組みです(公式ヘルプはこちら)。
例えば、クリックされたリンクの親要素のクラス名を取得するカスタム変数を作成することで、特定のセクション内のすべてのリンククリックを一括で計測できます。親要素がリンクリストの場合、どんなURLでも動作するような柔軟な設定が可能になります。
これにより、リンクが追加・削除されても、トリガーの設定を変更する必要がなくなります。サイトの構造が変わっても計測が継続できる柔軟性を持たせることができます。
カスタムディメンションと指標の活用
GA4でより詳細な分析を行うには、カスタムディメンションとカスタム指標を活用することが重要です。
カスタムディメンションの設定
カスタムディメンションは、イベントに関連する追加情報を記録するための「箱」です。例えば、クリックされたリンクのテキストや、ユーザーの属性など、標準では取得できない情報を記録できます。
GA4イベントタグを作成する際、「イベントパラメータ」としてこれらの情報を追加します。
- パラメータ名を半角英数字で設定(例:
click_text
) - 値として変数を指定(例: {{Click Text}})
その後、GA4の管理画面で「カスタム定義」から新しいカスタムディメンションを作成し、先ほど設定したパラメータ名と紐付けます。
重要なポイント: ディメンションを作成しないと、箱が用意されていない状態になります。このイベントパラメータの中身を見てもらうためには、必ずGA4側でカスタムディメンションを作成する必要があります。
カスタムディメンションの数には制限があるため(標準プロパティで最大50個)、必要なものを厳選して作成することが重要です。
カスタム指標の重要性
カスタム指標は、単純にイベント数をカウントするだけでなく、よりきめ細かな分析を可能にします。標準のイベント数だけでは、セグメントや比率の計算が複雑になる場合があります。
例えば、クリックイベントのCTR(クリック率)を計算する場合、
標準の方法:
- イベント名でフィルタリングしてイベント数を集計
- 別レポートでセッションを集計
- それぞれの集計結果をエクスポートしてCVRを計算
カスタム指標がある場合:
- フィルタリングなしで直接指標の実績を集計
- 同じレポートでセッション指標も集計
- それぞれの集計結果をエクスポートしてCVRを計算
と、1つのレポートで必要な指標をすべて集計できる利点があります。
カスタム指標を設定するには、
- イベントパラメータとして数値を送信(例:
count_click
の値を1に設定) - GA4の管理画面でカスタム指標を作成し、パラメータと紐付ける
このパラメータに全て1という値が入っているので、その値を全て指標としてカウントしてもらう、というカスタム指標の仕組みです。
GA4での効果的なデータ分析
カスタムディメンションとカスタム指標を活用することで、GA4での分析がより効率的かつ詳細になります。
探索レポートの活用
GA4の探索レポートでは、ディメンションと指標を自由に組み合わせて分析できます。カスタム指標を作成しておくと、フィルタリングの手間なく直接データを取得できます。
例えば、以下のような分析が簡単にできるようになります。
- 特定のカテゴリーの製品に関するイベントの集計
- 複数のコンバージョンポイントを横断した分析
- セッションベースのコンバージョン率(CVR)の算出
レポートの自動化
カスタムディメンションと指標を適切に設定しておくと、Looker Studioなどのツールでのレポート作成も効率化できます。一度設定すれば、定期的なレポートの更新も自動化でき、分析の継続性を確保できます。
データ活用を最大化する設定のコツ
Google Tag ManagerとGA4を使ったイベント計測は、Webサイトのユーザー行動を詳細に把握するための強力なツールです。以下のポイントを押さえて実装しましょう。
- 基本構造を理解する HTML、CSS、JavaScriptの関係とタグの役割を把握しましょう。建物の構造を理解するように、Webサイトの基礎を知ることが成功の第一歩です。
- Googleタグを最優先する 基本情報を収集するGoogleタグが最初に発火するよう設定しましょう。このタグが遅れると、重要なデータが「not set」になってしまいます。
- 効率的な変数管理 測定IDなどの共通値は変数として定義し、管理を一元化しましょう。入力ミスの防止と運用効率の向上が期待できます。
- 柔軟なトリガー設定 HTMLの親要素を利用した柔軟なトリガーで、サイト変更に強い設計を心がけましょう。一度設定すれば、コンテンツが変わっても計測が継続できます。
- カスタムディメンションとカスタム指標を活用 より詳細な分析のために、必要な情報を適切に設計しましょう。フィルターなしで直接データを取得できる環境を整備することで、分析効率が大幅に向上します。
- 命名規則を守る イベント名やパラメータ名は半角英数字で統一し、将来的なトラブルを避けましょう。Looker Studioでの連携エラーを防ぐためにも重要なポイントです。
これらのポイントを押さえれば、効率的かつ柔軟なイベント計測の仕組みを構築できます。適切なデータ収集により、サイトの改善に役立つ具体的な行動指針を得られるようになるでしょう。
最初は複雑に感じるかもしれませんが、一つずつ丁寧に設定していけば、必ず成果につながります。データに基づいた意思決定ができるようになると、Webサイトの可能性が大きく広がります。今日学んだ知識を活かして、ユーザーにとってより良いサイト体験を創り上げていきましょう。