検索ボリュームではなく、「検索ジャーニー」でコンテンツを考える方法

自然検索流入を意識したコンテンツを効果的に企画するための考え方「検索ジャーニー」についてその手順をご紹介します。ただ、月間検索数が多い/少ないではなく、誰に、何を、どう届けるかを大事にしたコンテンツ作りを行いたい人に届け!

こんにちは!JADEの垣本です。
最近一気読みしたマンガは『ダンジョン飯』、今いちばん続きが気になるマンガは『忍者と極道』です。

前回の記事「私がSEOのコンテンツプランニングで大切にしていること」では、「コンテンツを作るときに考えるべきことは?」という話を書きました。今回は、その手前の段階である「そもそもどんなコンテンツが必要?」という点を掘り下げたいと思います。

特に「検索クエリってどうやって洗い出すの?」「検索クエリをピックアップしてみたけど、優先順位の付け方が分からない……」という悩みをお持ちの方へ。私なりの回答をご提案します。

※前回の記事に引き続き、当記事におけるコンテンツは、自然検索流入を増やすことをKPIとしたものを念頭に置いています。

よくある質問「月5本の記事を作りたいのですが、何から着手すべきですか?」

コンテンツ部分のお手伝いをするとき、よくご相談をいただくのが「そもそもどんなコンテンツを、どんな順番で作ればいいですか?」ということです。作るコンテンツの優先順位を決めようとしたとき、揃えておけるとよいものは以下です:

  1. 網羅的な検索クエリ調査
    1. 商品の購入可能性があるユーザー(=見込み顧客)が、どのようなクエリを打ち込んで検索するのかを一覧化した表。検索ボリューム、購入可能性の高さ、クエリごとの検索意図を大まかにまとめることが多いです。
  2. ユーザー調査
    1. 見込み顧客はどのような人なのかをまとめた資料。年齢層や性別、趣味嗜好、抱えている悩みなどをある程度のパターンに落とし込みます。1パターンだけでなく、網羅的に「こういった人も購買層にはいるはず」というものを洗い出しておけると理想的です。
  3. 見込み顧客の検索ジャーニー
    1. 見込み顧客が商品に関心を持ってから購買に至るまでの過程で、検索行動がどのように変化していくかをまとめた資料。このあと詳しくご説明します。

1、2については、コンテンツ制作を担当される皆さんであれば基本的に揃えておられると思います。

時間が限られている場合は、1だけ作ってコンテンツ優先順位を決めることもあります。しかしこの場合「検索ボリュームが多いところから対応しよう」というような表面的な議論に終始しやすく、長期的に見るとデメリットが生じがちです。

コラム1つ1つの関連を考えず、目先の流入だけを見て走り出すと、ユーザーが見たときに「どこから読めばいいか分からない」「次に読むべき記事が分からない」ということが起こります。1つ1つのコラムはよいものであったとしても、それらの間に繋がりがなければ、ユーザーはサイトの中で迷子になり、その場から離れてしまうでしょう。

その問題を解消するために最近取り組んでいるのが、検索ジャーニーにもとづく全体設計と優先順位付けです。

よくある質問への答え「検索ジャーニーから考えましょう」

コンテンツ制作を始めよう、となったとき、まず考えたいことが2つあります。以下の問いに明確に答えられるかどうか、確認してみましょう。

  1. あなたのビジネスでは、コンテンツにどのような役割を期待しますか?
  2. あなたの顧客となる人がどのような人で、どのような時系列で顧客となっていくのか、整理できていますか?

1について、「売上を伸ばしたい」「将来の見込み顧客と継続的にコミュニケーションを取りたい」など、さまざまな回答があるはずです。ここは必ず明確にしてください。それによって、コンテンツ制作の優先順位が変わります。

2について、「どのような人」についてはユーザー調査が終わっていれば明らかになっているはずです。意外と見落とされがちなのが、「どのような時系列で」という部分です。カスタマージャーニーマップを作っている場合は、この点もクリアになっていると思います。その場合、情報収集〜購買といった各フェーズの行動を検索クエリに落とし込む、という視点ではどうでしょう?もう少し掘り下げる余地があるかもしれません。

検索ジャーニーが整理できていれば、「注力すべきクエリは具体的にこれで、その前後にこういった検索行動が起こりうる。だからこういうコンテンツを繋いでいくべきだ」という見通しが立ちます。これを道しるべとして、優先順位を決めていくのがおすすめです。

実践:しいたけ栽培キットは、誰が・いつ買う?

実際に上記のことを考えてみたらどうなるか、一緒にやってみましょう!私が最近買って感動したもの「しいたけ栽培キット」を例にして、考えてみたいと思います。あなたがしいたけ栽培キットの通販サイトを運営していて、販売数を自然検索経由で伸ばすためにコンテンツを作るとしたら?という目線で考えてみてください。コンテンツに期待する役割は、販売数増加への貢献です。

自宅でしいたけがたくさん採れる素晴らしい商品です

1. 顧客になりうるのはどんな人たちかを洗い出し、掘り下げる

まず、しいたけ栽培キットの購入に繋がりそうな人たちはどのような人かを考えてみます。このとき私は、以下のような図を作ります。

中心に「しいたけ栽培キットを買う」というゴールを置いて、その周辺に「こういうパターンの人たちがいるかな?」「その人たちは、なぜそう考えるに至ったのかな?」というアイデアを広げていく形です。

「しいたけ栽培キットを買う」というゴールを中心に設定し、その周囲にいるのがどのような人なのか?という発想を膨らませていきます。

実際にはもっと様々な人たちがいると思いますし、「キットを買う」の背景にあるものはさらに多岐に渡るでしょう。調べれば調べるほど終わりのない作業になりますので、まずは思いつくものを書き出していく、というのが大事です。ある程度書き出したら、他の人にも見てもらったり、データを確認したりして、この図を補強していきます。

この過程で、特にどういった人たちが顧客になりそうか?温度感が高い・低いで分類するとどうなるか?といったイメージも膨らませていきます。

ここで言うと「きのこの栽培に興味がある」という人はかなり購買行動に近いですね。一方で「子どもの教育によさそうなものを探している」「話のネタになるものがほしい」といった人たちは、他にも星の数ほど選択肢を持っています。ここからしいたけ栽培キットの購入につなげるには、工夫が必要そうです。

2. どんな言葉で検索するかを調べる

次に、具体的にどんな検索クエリで調べるか、という観点に移りましょう。ここでキーワードツールを開いてもよいですが、私は先に検索画面を開くことのほうが多いです。

まず自分がきのこの栽培に興味があるとしたら……検索窓に「きのこ 栽培」と打ち込みます。

すると予測変換に「栽培キット」「栽培 原木」「栽培 自宅」などが出てきました。なるほど、「キット」という言葉もあるし「原木」という表現もあるんだな、ということを書き留めます。

同時に「マイクラ」や「アプリ」というかけ合わせは、栽培キットの購入とは関係がなさそうです。こういう検索ニーズもあるんだ、ということも書いておくとよいでしょう。検索広告を出稿するとき、除外キーワードリストとして役立ちます。

Google 検索で「きのこ 栽培」と打ち込んだときの予測変換。「栽培キット」「栽培 原木」「栽培 マイクラ」といった予測変換が並んでいる

上記のように、「まず自分ならこう検索する」というクエリを足がかりにして、予測変換を見たり、検索結果上に表示されたページを読んだりしていきます。その過程で、自宅で手軽に栽培したければ「栽培キット」という検索に移っていくでしょうし、本格的にたくさん栽培するなら「原木」「ほだ木」といった表現に移っていくかもしれません。ニーズによる検索クエリの枝分かれを意識しながら、どんどん一覧表を作っていきます。

ある程度クエリが出てきて、主要だと思われるかけ合わせ語句をピックアップしたら、ここで私はキーワードツールを使います。見落としているかけあわせクエリがないかどうかを調べ、クエリごとの検索ボリュームもあわせて取得します。

なお、ここで検索ボリュームの総計がとても少ないことに気付いたら、コンテンツをどう作っていくか改めて考えましょう。そもそも検索ニーズがない商材の場合、検索流入を意図したコンテンツ制作よりも優先すべきことが他にあるかもしれません。

3. 検索行動の変化を、検索ジャーニーに落とし込む

検索ジャーニーの作成に移ります。ここまでの過程で、「誰が、どのようなクエリで検索して、商品にたどり着くのか」という情報が蓄積されているはずです。それらをもとに、情報を整理していきましょう。例えば、以下のような表を作ります(実務では、検索クエリはもっと多く出すほうがよいと思います)。

調べる方法として1つおすすめなのは、商品を購入した人をSNS上で探すことです。その方が前後でどのようなことに関心を示しているか、情報を集めてみましょう。他にはYahoo!DS.INSIGHT というリサーチツールも参考になりますので、利用できる環境にある方は見てみるのもよいと思います。こちらを使うと、「しいたけ栽培キット」というクエリで検索する人が、前後1年でどういった検索をしているか、といったことを探ることができます。

横軸を時間の流れとし、縦軸にユーザーの心理や検索ワード、必要なコンテンツイメージなどを記入していく

ざっと作ってみると、「日頃から考えていること、予定しているライフイベントなど」に入っているクエリと、「情報収集」に入っているクエリにはだいぶ距離があるな、という印象です。ユーザーの関心をゴールに近づけるには、まずここに1つ大きな壁がありそうです。そうすると、まず目先では「情報収集」以降のフェーズに注力したほうが良いかな?というような議論ができるでしょう。

また、最終的にしいたけ栽培キットにたどり着いてもらうために、ヒントとなりそうなものも見えてきました。例えば「室内」「小さい鉢」というかけあわせ語句を持った検索クエリ。

「屋外には置けない」「広いスペースは確保できない」といった背景を持つユーザーは、しいたけ栽培キットに関心を持つ可能性が高くなるかもしれません。こういったユーザーに向けて「しいたけ栽培キットなら、カラーボックス1段分くらいのスペースで育てられますよ!」とアピールすると良いかも……というふうに、コンテンツのイメージを膨らませていきましょう。

さらに言うと、GA4などの分析ツールを使って、サイトへの初回訪問から商品購入までにおよそどのくらいの期間がかかっているか?というデータも取っておけるといいですね。検討期間が短い商材なのか、長い商材なのか……ということも、コンテンツをどう作っていくかに影響します。

4. 必要なコンテンツと優先順位を決める

検索ジャーニーが完成したら、もう一息です。ピックアップしたクエリで、自社Webサイトのページが検索結果にヒットしているかどうかを調べましょう。このとき、最高の順位が何位で、そのとき表示されたURLはどれか、ということを抽出しておくのがおすすめです。BigQueryを用いて出すのがいちばん早いと思います。

私は自分でSQLを書けないので、書ける人に以下のようなお願いをしました:

「Google Search Console のデータを使って、特定の日付に表示されたすべての検索クエリと、それらに対応する平均順位・URLを取得したい。1つのクエリに対して複数のURLがヒットしている場合、最も順位が高いものだけを抽出したい」

データが手に入ったら、あとは集計です。フェーズごとに、対応できているところ・そうでないところを明確にしましょう。

フェーズ ジャーニーで選定したクエリ数 何らかのURLがヒットしているクエリ数 既存のコンテンツでカバーできている割合
日頃から考えていること 18 0 0.00%
情報収集 12 3 25.00%
比較検討 7 3 42.86%
熟考 7 5 71.43%
購入決定 4 4 100.00%
購入後 8 2 25.00%

上記はダミーの数字です。たとえば、これをもとに以下のような議論ができそうです:

  • 購入決定の段階まで来たユーザーにはしっかりアプローチできている。新しい記事は必要なさそう。あとは順位やクリック率を確認し、伸びしろがあれば最優先で対応するのはどうか。
  • 熟考段階のユーザーにも、かなりアプローチできている。伸びしろは残っているので、優先して対応したい。新規記事が必要か、それとも既存コンテンツへの加筆等で対応できるか調べる。
  • 比較検討段階よりも前のユーザーになると、フェーズが浅くなれば浅くなるほどカバー率が下がっていく。どこまでやるべきかは議論が必要だが、情報収集段階までは対策したい。
  • 購入後の疑問に答えるコンテンツなどは十分に準備できていない。リピーターを増やすことを優先すべきであれば、このフェーズの対策優先度を上げるべきかもしれない。

上記ではとにかく購入に近いユーザーを徹底的に取りに行くことを最優先として考えましたが、むしろもっと検討度合いの浅いユーザーにアプローチしていくという方向性もあるはずです。今すぐ数字を伸ばすのか、それとも中長期的に伸ばすのか、というような観点もあわせて考えていくと、優先順位は自ずと明らかになるでしょう。

コンテンツを通して何を実現したいかを考えよう

検索ジャーニーをもとにして考えることで、ユーザーが経由するさまざまなタイミングでのアプローチが可能になります。できるだけ初期の段階からユーザーとの接触を開始し、Webサイトの中でどんどん疑問が解決していく形になれば理想的だと思います。

もちろん、その「コンテンツ」は検索流入を念頭に置いたページだけではありません。SNSでの発信や、メールマガジンでのコミュニケーションが最適であるケースもあります。そういった観点も踏まえながら、「検索流入を増やし、ビジネス目標を達成するために、どこから手を付けてどこに向かおうか?」ということを考えていきましょう!