ユニバーサルアナリティクス(以下UA)のデータ処理がされなくなる予定の7月1日まで2ヶ月を切りました。GA4への移行や導入支援などのサポートをしている弊社ではUAで対応していたことのほとんどはGA4で対応していて、UAではしづらかったような分析もできるようになりWebサイトの改善施策の提案も質も向上しました。
しかしながら未だに悩んでいる領域があります。それは広告運用のためのアクセス解析です。この記事及び今後のこの記事で、広告運用におけるGA4では何ができて何ができないかを書きます。広告運用代行業者及び広告主の方がGA4へどう向き合うべきか、参考にしていただければと思います。結論づけはしていません。
また、この内容は現時点での公式の情報やわたしが検証できていることなどに限ります。今後仕様は変わってできなかったことができるようになるかも知れませんし、わたしが検証しきれていないこともあるかもわかりませんのでご容赦ください、もし何かできるようになったり見落としていることがあればぜひ訂正いただきたいので気軽にツイートかお問い合せかください。
先日 a2i で話した内容をサマライズしたような内容になります。
まず、広告運用のためにアクセス解析はほぼ必須
各広告プラットフォーム(広告媒体)そのもののコンバージョン計測は、各広告プラットフォームごとに仕様や精度などが異なります。また、例えば自然検索結果の見出しをクリックしてFacebookのリターゲティング広告をクリックして最後に検索広告をクリックしてコンバージョンに至った場合、各広告管理画面でコンバージョンを確認するだけではその広告効果を的確に評価するのはほぼ不可能です。広告プラットフォームの計測タグによるコンバージョントラッキングは広告システムが配信結果を学習して自動入札の判断に使うためにも必要ですし、費用対効果の把握も特定の視点のみにおいては可能なので重要なものですが、成果と費用対効果を複数の視点から確認してプロモーションの目的に合わせた的確な判断をするためにはアクセス解析ツールがなければとても難しいです。
広告運用においてアクセス解析は何のために使うか
次のことが挙げられます。
- 各広告プラットフォームのパフォーマンスの把握
- 各広告プラットフォームの広告効果を同一基準で計測し比較する
- 同一基準による費用対効果の確認
- 広告以外のサイト訪問との関係性の確認
- より深い分析
- 広告管理画面では確認できない指標の確認
- 広告管理画面では難しいユーザー行動分析
主にこういったことをするためにアクセス解析ツールはほぼ必須で、広告運用にとって良いアクセス解析ツールを選んで活用する必要があります。
ではGA4が最適、最高、理想的なのかというと
GA4にはUAにない良いところはたくさんありますし、行動分析をするにはとても便利に活用でき、アクセス解析ツールとしてとても良いものであることは間違いないです。ただし少なくとも現段階のGA4の仕様では広告の基本的なパフォーマンスの把握や定点観測、広告全体の費用対効果の確認などにおいてはなかなか使いづらいところが多く、なんとかしてがんばるか、ある程度以上は諦めながら付き合うかしかないと思います。
UAはものすごく使いやすかった
UAは広告運用者にとってとても使いやすいように作られたものだと、GA4を使うと実感できます。
適切にトラッキング用のURLクエリパラメーターを設定してある程度おおまかな形式でもいいからコストデータのインポートをするだけで、重要かつ基本的なことはだいたいカバーできました。
- コストデータのインポートをおおまかにするにも細かくするにも好きなようにできた
- コストデータのインポートの必須の要件が良い形に緩かった
- 広告のパフォーマンスの確認をするに充分かつ使いやすいディメンションと指標を用意してくれていた
- トラッキングデータとインポートデータとGoogle 広告という別のシステムから送信されてくるデータという3つの異なるデータを使いやすく絶妙な具合に結合してくれていた
- Looker Studio につなぐと広告関連のディメンションと指標はかなり細かいものまで、さらにはコストデータまで出力してくれていてとても良い形のレポートが苦労なく作れた
- 技術的理解があまりなくてもよく使えたので非技術者であるマーケターや広告運用者などにとって都合がよかった
反面、GA4の弱いところが上記ということでもあります。
現時点での現実的な最適解かも知れないこと
- 広告のリンク先に適切にトラッキングパラメーターをつける
- 探索レポートで広告に関するレポートを作りGoogle スプレッドシートにエクスポートする
- Google スプレッドシートに反映させた広告のレポートデータとGA4のデータをよしなに結合する
この先の説明を読んでみてできない、めんどくさい、と感じる方は少なくともしばらくはこのくらいの利用をするのも現実的で一つの良い判断だとも思います。
または、費用対効果を省けばこのレポートを利用していただければパフォーマンスの把握は可能です。
https://lookerstudio.google.com/reporting/93ff2e7a-caa7-49cb-8a98-3c1e10153e5c/page/p_4oefl5a44c
ここからエクスポートして、広告のレポートとはGoogle スプレッドシートかエクセルで結合することで費用対効果を計算することもできるかと思います。
GA4で広告パフォーマンスを把握するための3ステップ
【STEP 1】UTMパラメーターを適切につける
おすすめの方法をご紹介します。
Yahoo!広告は次のように設定します。
まずアカウントレベルのトラッキングURLに次のように設定します。
検索広告
{lpurl}?utm_source=yahoo&utm_medium=cpc&utm_content={creative}&utm_term={keyword}&utm_campaign={_campaign}&utm_id={campaignid}
ディスプレイ広告
{lpurl}?utm_source=yahoo&utm_medium=display&utm_content={creative}&utm_campaign={_campaign}&utm_id={campaignid}
そして、キャンペーンレベルのカスタムパラメーターに次のように設定します。
{_campaign}=(ここには任意の文字列。半角英数がおすすめ)
Meta広告は、作成したすべての広告のリンク先URLではなくURLパラメーターに次のように設定します。
utm_source=facebook&utm_medium=display&utm_campaign={{campaign.name}}&utm_content={{ad.id}}&utm_id={{campaign.id}}
{{campaign.name}}にはキャンペーン新規作成時に設定したキャンペーン名が挿入されます。半角英数のみにしておくのがおすすめですが、キャンペーン名を後から変えても新規作成時のキャンペーン名が挿入されますので、ひらがなカタカナ漢字で書いていたのを半角英数に変更するには新規キャンペーンを作成するしかありませんのでご注意ください。
Microsoft広告はYahoo!の検索広告(つまりGoogle 広告)に似ています。
アカウントレベルのトラッキング テンプレートに次のように設定します。
{lpurl}?utm_source=bing&utm_medium=cpc&utm_content={AdId}&utm_term={keyword:default}&utm_campaign={_campaign}&utm_id={CampaignId}
そして、キャンペーンレベルのカスタムパラメーターに次のように設定します。
{_campaign}=(ここには任意の文字列。半角英数がおすすめ)
キャンペーンレベルのカスタムパラメーターは利用せず、アカウントレベルのトラッキングテンプレートに utm_campaign={Campaign} と書くことで、キャンペーン名を直接挿入することも可能でこの方法もおすすめです。この場合はキャンペーン名を半角英数文字にしておくことがおすすめです。
全般的に言えることは、データインポートのために必須なパラメーターと値は書いておくこと、広告の運用業務自体の妨げになるような面倒な方法にはしないこと、です。
アクセス解析優先で面倒で注意しないと間違えそうでなんなら広告の設定に支障まで及ぼすような計測パラメーターのルールを作るのはやめましょう。アクセス解析屋さんと解析系のベンダーさんにありがちなので肝に銘じてほしいです。計測のために広告運用業務の効率を落とすという本末転倒なことはしないでください。広告運用の現場をよく理解してください。
Twitter広告は、、どうやっても面倒なのでがんばってください。
【STEP 2】コストデータをインポートする
例えば次のようなデータをCSVファイルとして作成し、GA4管理画面の「データインポート」で必要な設定をしてインポートします。詳細は公式ヘルプをご覧ください。
Date | medium | source | campaign_id | campaign | Clicks | Impressions | Cost |
---|---|---|---|---|---|---|---|
2023-04-12 | display | 1234567890123 | retargeting | 10 | 250 | 800 | |
2023-04-12 | display | 9876543210980 | targeting | 5 | 200 | 500 | |
2023-04-12 | cpc | yahoo | 1234567890 | general_term | 30 | 2300 | 10000 |
2023-04-12 | cpc | yahoo | 0987654321 | brand_term | 20 | 400 | 2000 |
2023-04-12 | display | yda | 12345678 | targeting | 10 | 20000 | 100.123 |
2023-04-12 | display | yda | 09876543 | retargeting | 30 | 40000 | 500.789 |
こちらはサンプルファイルとしてご参考ください。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1X1vixQDYoi_67VVl8-3vseycZGAO1H2nzPy6Fb4pLAQ/edit#gid=0
なお、上記のようなインポートファイルを作るのは実際かなり大変かと思います。UAではcampaignとcampaign_idが必須ではなかったので簡単でした。source と mediumのみ、つまり広告プラットフォームレベル(Yahoo!広告かMeta広告かというレベル)だけのコストデータをインポートするのは簡単でしたし、それだけでも十分全体の費用対効果の把握は可能だったわけですが、GA4ではそれはできません。強制的にキャンペーンレベルでのインポートを強いられます。utm_campaignに指定した値を取り出すのは管理画面だけの機能では難しい広告プラットフォームはありますし、APIで取得してもカスタムパラメーターに指定した値を取り出せない広告プラットフォームもあります、この場合最終URLに計測用のパラメーターを書いていれば取り出せるでしょうけれども、すると広告運用業務の効率と正確性に影響が出ます。弊社ではAPIで取得したデータからクエリを書いて抽出していますが、一部は、このキャンペーンIDの場合はcamapignの値にこの文字列を出力する、CASE WHEN CampaignId = '1234567890' THEN 'brand_term’(中略) as campaign, というようなクエリを書いてます(例です)。メンテナンスが発生するので憂鬱です。
さらに不都合なことに、この必須データすべてが揃った形でトラッキングされていなければインポートしても反映されません。GA4に限らずアクセス解析ツールによる計測は100%されるわけではありません、ユーザーがオプトアウトしたり計測されない環境だったりとなんらかの事情で計測されていないことはあります。ですので例えば1日数クリックしかないキャンペーンでその数クリックがトラッキングされない日があった場合その camapign & date のデータをインポートしても反映されなく広告コストの合計額が正しくなくなるということです。小規模のキャンペーンがあればこれが起きうる可能性は高いです。
ところでそういえば、Yahoo!広告の{campaignid}は、ディスプレイ広告だとキャンペーンIDの値が挿入されますが、検索広告だとキャンペーンIDではなくてキャンペーントラッキングIDの値が挿入されます。キャンペーンIDとキャンペーントラッキングIDは異なりますので抽出する際にご注意ください。
【STEP 3】レポートを作る
インポートまではなんとかできたとしたら広告の状況把握をするためのダッシュボードを作成できます。ですがここまでの苦労が報われない程度のものしか作れません。
まずディメンションが、Google 広告のものとGoogle 広告以外の広告のものとで分断されます。
例えば次のようなレポートになります(実際にはこれらのディメンションを一緒には表示できません)。
セッションの参照元 / メディア | セッションのキャンペーン | セッションのキャンペーンID | セッションの手動キーワード | セッションの手動コンテンツ | セッションのGoogle 広告キャンペーン | セッションのGoogle 広告キーワードのテキスト |
---|---|---|---|---|---|---|
yahoo / cpc | brand_term | 123456789 | ジェイド | 1234567890 | (not set) | (not set) |
google / cpc | 指名検索 | 987654321 | (not set) | (not set) | 指名検索 | ジェイド |
そして指標も分断されていまして、Google 広告とGoogle 広告以外の広告とで次の2つの表にわかれます。
セッションの参照元 / メディア | Google 広告の表示回数 | Google 広告のクリック数 | Google 広告の費用 | Google 広告のクリック単価 |
---|---|---|---|---|
google / cpc | 10,000 | 100 | ¥10,000 | ¥100 |
セッションの参照元 / メディア | Google 広告以外の表示回数 | Google 広告以外のクリック数 | Google 広告以外の費用 | Google 広告以外のクリック単価 | Google 広告以外のコンバージョン単価 |
---|---|---|---|---|---|
yahoo / cpc | 10,000 | 100 | ¥10,000 | ¥100 | ¥10,000 |
yahoo / display | 10,000 | 100 | ¥10,000 | ¥100 | ¥10,000 |
meta / display | 10,000 | 100 | ¥10,000 | ¥100 | ¥10,000 |
ポイントは次のとおりで、
- Google 広告とそれ以外とのすべての広告の合計額や合算した費用対効果などの確認ができない
- Google 広告はなんと「コンバージョン単価」がないので単独でも費用対効果の確認ができない
- 定点観測のダッシュボードとしては適していない探索レポートでしかこれらを作れない。標準のライブラリでも一部作れるが全部を作れない
実運用に深刻な問題があります。
では Looker Studio では、と思いきやこちらにはまた十分ディメンションと指標が出力されませんし、そもそもAPI割り当て制限がきつすぎて実用に耐えないケースも多いです。
ということで現段階ではなかなか苦しいところがあります。できるとしたらここまでのことであって、これでも不便ながら広告の費用対効果をある程度把握は可能なのでやらないよりやっておいたほうがいいことではありますが、苦労する割にこの程度なので現実的な最適解としては前述したとおりです。
結局はBigQueryを使うべきかも知れないけどこれも辛いところがある
GA4の良いところの一つに、無料版でもBigQueryにエクスポートできるということがあります。BigQueryにエクスポートしたGA4のデータと広告のデータとをBigQuery内でJOINすれば、ディメンションや指標なども好きなように組めるので結局はこの方法しかないのかなとも考えられます。
しかしこの場合も不便な事情があります。
- BigQueryとSQLへの理解が、初歩レベルではなく一定以上のレベルで必要
- 1日1回のエクスポートだと早くても12時台になるので、朝に前日までの結果を把握して広告入札や設定変更などをどうするか考えることができない
- ほぼリアルタイムのエクスポートもできるがその場合処理されないデータもある
- Google 広告とGA4とをリンクしたとしても、BigQueryではGoogle 広告が google / organic になるしキャンペーン以下の粒度のデータは何も反映されない、つまり自然検索と同じ扱い
個人的には3つ目が衝撃的なところです。なお、Google 広告にもUTMパラメーターを付与すれば、source、medium、campaign、content、term などのイベントパラメーターに値が反映された形でエクスポートされます。それでなんとかするしかないのかもわかりませんが、どこにどう悪影響が出ているかいないかも定かではないので保証はできません。
前日の結果を早い段階で確認するのは難しそうなので、これはGA4のデータではなく広告プラットフォームそのもののデータのみで主にコスト管理を目的として確認して、後でGA4のデータを伴って成果と費用対効果をあわせて確認するという流れとするしかないかなと考えられます。
BigQueryの活用についてはそのうちまた書きたいと思います。
GoogleはGA4を誰にどう活用してほしいのか?
広告運用者であれば、GoogleからのGA4のゴリ押しを広告側からもアナリティクス側からも体験していることかと思います。これだけ推奨してくるのであれば広告運用者にとってとても良いものであってほしいのですが、広告運用者にこそ取り組みづらい仕様にしてしまっているのが、なんとも解せないところです。Google 広告だけを優遇しているのであればまだうなずけるのですが、Google 広告のパフォーマンスの把握もしづらいというのがとても不思議なところです。
アクセス解析専門の方やエンジニアの方にとってはとても良いものでしょう。
なお、さんざん苦言を呈した形になりましたが、GA4でないと分析しづらいこと、広告のパフォーマンス改善のためにすごく良い分析ができる側面は多くありまして、JADEでは広告運用コンサルタントも含む全コンサルタントがGA4をがんがん活用していく所存ではあります。
より良いものにしていっていただけることをGoogleには期待しています。
リアルタイムQ&Aのお知らせ
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