【広告主に知っておいてほしい】Web広告のお金周りのポイント5つ

広告運用の仕事に長く携わっていると様々なトラブルや課題などに直面しますが、中でもお金に関する問題は、広告運用全体に対して特に影響を及ぼす問題だと言えます。お金の問題でつまづいていると新たな施策を実行することはもちろん、安定した結果すらも生み出すことが難しくなります。

この記事では、自社運用、代理店運用どちらの広告主企業の担当者様でもぜひ知っておいてほしい、広告システムのお金周りの仕様と広告予算の考え方について5つのことをご紹介します。

1.レポートの費用と媒体社からの実際の請求額は違う

広告媒体によって詳細は異なりますが、次の2つは異なることがあります。

  • 広告配信結果のレポートの費用
  • (広告媒体社からの)実際の請求額

前者は、広告管理画面のキャンペーンレポート画面に表示される費用で、後者は、利用明細や明細書、履歴などといったような名目で出力できる情報です。

誤解を恐れず言えば広告配信結果のレポートは速報値のようなもので、一旦クリックや費用などがカウントされた後、そこから、無効とみなされたクリックや広告表示、設定上の上限予算を超過してしまった分などが省かれるなどして、請求額が決まります。

多くの場合あまり大きな差は発生しませんが、稀に大きな差が発生しますし、広告費の総額が大きければその差額は割合としては小さめでも大きな金額になります。

今見ているものは速報値なのか確定した請求額なのか、常に意識して見ておくといいでしょう。日常的に目にできるものはたいてい前者にはなります。

2.広告代理店が請求額を計算するときの数値は広告代理店によって異なる

広告代理店に依頼するとき、よくある料金体系は次のとおりですが、

広告費 + (広告費×20%)=広告代理店からの請求総額(税別)
※料率はケースバイケース。固定費の場合も

この、「広告費」というのは、いつ、どこの情報を参照するかで異なります。

媒体によって異なりますが、Google 広告とYahoo!広告であれば概ね次のとおりです。

どこの金額か いつの情報か 備考
媒体社からの実際の請求額 月明け3〜5営業日くらい 確定してから出力される
広告配信結果のレポート 月明け1日目 前月の数値は確定していない可能性が高い
広告配信結果のレポート 月明け3日目くらい 前月の数値は概ね確定していることが多い
広告配信結果のレポート 月明け5日目くらい 前月の数値は確定しいていることが多い

広告配信結果のレポートは一旦数値が反映された後に修正をされることがあるので、例えば、10/1に見る9月いっぱいの結果と10/2に見る9月いっぱいの結果では変わっていることがあります。そのため、広告配信結果のレポートを基に計算している場合、いつ取得するデータを基にするかで結果が変わります。また同じタイミングでも、ブラウザで表示した広告管理画面の数値を参照するのか、APIで取得するのか、どのレポートツールで取得するのか、データの取得方法によって差が生じることがあります。

確実に正しい広告費を基に計算するなら媒体社からの実際の請求額(利用明細や利用履歴など)を参照するしかありません。しかし実際の請求額が確定するのは月が明けて3〜5営業日程度はかかることになり、早めに請求書を必要とする広告主にとっては遅いものになってしまいます。

現実的には次のようなルールを契約条件として決めておくのがおすすめです。

  • 月が明けて何日目で取得するデータを基とするか
  • どの方法で取得したデータを基とするか

月が明けて2日目以降に取得したデータなら、実際の請求額から著しく差が生じることは稀です。

請求書が届くのを、月が明けて5営業日以上でも待てるなら実際の請求額を基に計算してもらうのもよいでしょう。だたし、実際の請求額を基にすると広告代理店側の工数は大幅に跳ね上がります。請求作業に手間をかけてもらうことで広告運用にかける手間を減らすことになり、得られるリターンが下がる可能性に気をつけましょう。

実際どのくらいの差額が発生するかは広告アカウントによって異なるので、相談してみるといいと思います。弊社の経験上では、議論を尽くした結果「月明け2〜3日目の広告配信結果レポートで充分」という結論に至ったことしかありません。

3.設定していた予算を大きく超えて費用がカウントされることがある

広告媒体によって異なりますが、例えばGoogle 広告では、キャンペーンの1日あたりの予算を超えて費用がカウントされることがあります。2倍まで超えるのは仕様通りのことなのですが、レアケースとしては1日の予算を1,000円と設定していたのに、1日の費用が10,000円とカウントされることもあります。

ただし、その日の請求額は、設定した1日の予算の2倍までです。レポートでは一旦大きく費用がカウントされても、実際の請求額は設定予算の2倍までになります。

Google 広告であれば、広告配信結果のレポートの費用と、実際の請求額とを比較して確認できるようなレポートを、レポート画面で作成することもできます。

レポートの費用と請求額

設定した予算の2倍を超えてカウントされたときはまず落ち着いて、実際の請求額がどうなっているか確認しましょう。2倍まで超えるのは仕様通りなので慌てることではありません。ちなみに月の請求額についてはここでは詳しくは触れませんが、基本的には1日の予算×30.4を超えることはありません。他の広告媒体はまた仕様が異なることがあります。

残念ながら広告媒体すべてで、このようなわかりやすいレポートを作れるわけでもありません。かなりのレアケースとして、不具合により設定した金額より高くカウントされた経験もありますが、配信結果のレポートの費用と請求額との差分をわかりやすく確認することが難しい広告媒体では、注意深く見るしかありません。

自分が設定した内容と結果とに乖離がないか、仕様上ありえない数値になっていないかは常に意識して見ておくしかないでしょう。大幅な差異が生じることは稀なため毎日注意して見るほどではないですが、月単位では確認しておいたほうがいいでしょう。

なお、請求はされなかったとしても配信結果のレポートには請求額を大きく超える費用がカウントされたままになることもあります。そのために配信結果のレポート上はCPAが大幅に高くなることもあり、しばらくの期間は非常に費用対効果の把握がしづらい状況となることもあります。

レポートのダッシュボードがあれば「この日は実際の請求額より高い費用がカウントされた」とでも書いておくといいでしょう。

4.グループ各社や部署単位などでの予算区分を持つのはとても難しいことが多い

例えば次のような区分ごとに予算を分けて広告配信したいという意向がある場合どうすすべきかを考えることとします。

業種 予算区分 月次予算
美容サロン 新宿店 500,000円
渋谷店 400,000円
横浜店 200,000円

この場合、予算区分となる店舗単位で広告キャンペーンを作り、広告配信する地域を変えることで対応できればいいのですが、悩ましい問題がたくさん出てきます。

広告キャンペーン 主な広告配信対象地域 悩ましい問題
新宿店 新宿区 京王線沿線は何店の区分になるのか
渋谷店 渋谷区 渋谷区の北部はほぼ新宿
横浜店 横浜市 横浜にいる人は結構新宿まで行く

新宿に居る人に狙って広告を配信することは可能ですが、新宿店に行くであろう人を狙って新宿店の予算で広告配信することはとても難しいです。新宿に関心を示す人へ配信するという設定は可能ですが、広告システムが判別できる限りでしか実現されないので機会損失は発生します。そこに居る人は絶対にそこの近くの店にしか行かないという業種ならその地域にのみ配信すればよいということになりますが、そういう業種ではない場合はそれだけでは機会損失が大きいです。実際、横浜市へ配信する広告の分量を増やしたら新宿店への来店数が増えた、という結果になることはあります。大阪市と名古屋市と新宿区くらいに距離が離れていれば配信対象地域で区分けしやすいですが、しかし日本全国へは一切広告配信しなくていいのか、九州の人は何店に来るのか、と考えるとやっぱり厳密には区分けできません。

また、他のケースとして次のような場合はどうするべきかを考えます。

業種 予算区分 月次予算
化粧品販売 ヘアケア用品 800,000円
スキンケア用品 800,000円
メイク用品 800,000円

この場合は広告キャンペーンごとに設定するキーワードで区分けできればいいかも知れませんが、この場合も悩ましい問題が出てきます。

キーワード 悩ましい問題
シャンプー (明らかにヘアケアなので問題なし)
化粧水 (明らかにスキンケアなので問題なし)
化粧品 メイクの意味だがスキンケアは一切意味しないだろうか
コスメ スキンケアなのかメイクなのかヘアケアなのか?
{ブランド名} すべての部門に関わる

どのジャンルなのか明確に決められないキーワードは、どんな広告プロモーションにおいてもほぼ確実にあります。また、ファンデーションと検索してサイト訪問したユーザーが洗顔料と化粧水を買うということも実際にありますし、やはり厳密に区分けすることは難しいです。ディスプレイ広告では「美容に興味がある人」というようなターゲティングをするので区分けはほぼ不可能です。

どうしても予算を何かしらの方法で区分けしたい場合、次のようないくつかのルールが考えられます。

  • ある程度曖昧な前提とする
    • 広告キャンペーンで区分けするものの、中身の細かいことはあまり気にしない
    • 明確に区分けできない広告キャンペーンは何かしらの割合で計算する
  • 各店や各部署などが負担する費用は、広告配信結果から算出する
    • 部門ごとの商品の売れた数あるいは収益の割合で計算する
    • 店舗ごとの来店数で計算する

ところでこれはあくまで個人的な経験上での見解ですが、無理な予算区分を優先する企業は次のような企業が多いと感じます。

  • 部門を横断して取り組むことのできない、縦割りな組織構造の企業
  • ユーザーベースではなくプロダクトベースで物事を考える文化の企業

前者では、残念なことに同じ会社内でキーワードを取り合うという社内競合が発生することもあります。同じ会社で、同じWebサイトを運用しているのであれば全部門通して横断的に手を取り合って、部門よりも上のレイヤーである一つの企業という視点で広告戦略を練り、広告予算も人的資産も有効活用するべきです。

後者について、商品やサービスなどを買うのは人であり、広告は誰に対して届けるかが基本です。ある商品を売るのにいくら費用を使うのかというのは重要な視点ではありますが、誰にアプローチするのにいくら費用を使うのかが、まずベースにあるべきです。

簡単なことではないとは思いますが、広告予算区分の問題が発生したらぜひ組織構造や組織文化などに問題がないか見直しましょう、それもマーケティングの一部です。

5.月の後半に予算を大幅に上げると、もったいないお金の使い方になる

広告の総予算を上手く使えずに余ったとき、今日からでもすぐに多くの広告費を費やせるのは、運用型のWeb広告の一つのメリットではあります。しかしこの判断は、短期間で極端に使う費用を上げても普段のコストパフォーマンスは得られないと認識して、行いましょう。

例えばWeb広告の月間(30日間とする)の予算が30万円だったところ、20日目に、広告の総予算が余ったのでGoogle 広告に60万円を追加で割り当て、合計90万円にするとします。

あくまで想定ですが次のようなことになる可能性があります。

期間 使う費用 CPC CPA
1日〜10日目 100,000円 100円 10,000円
11日〜20日目 100,000円 100円 10,000円
21日〜30日目 700,000円 350円 35,000円
合計 900,000円 225円 22,500円

使う広告費をすぐに増やすには、入札単価を上げつつクリック数を増やすか、これまで配信していないターゲティング(キーワード、オーディエンスなど)を追加するのが基本的な手段です。

入札単価を上げることでクリック単価を上げてコンバージョン率が上がらなければCPAは上がります。もしコンバージョン率が上がればCPAは保てるかも知れませんが、仮にクリック単価が2倍になったならコンバージョン率も2倍上がらなければCPAは保てませんが、そこまで上がる可能性は低いです。

これまで配信していないターゲティングを追加するとしても、すぐに思い当たるような内容で既存のターゲティングと変わらないCPAになるほどの結果を出すのは至難の業です。それで良い結果になるならたまたますごく良い方法を見つけたか、それまでサボっていたかのどちらかです。良い方法がわかっているのなら事前に実行できているべきことです。

月間の予算を追加するならできるだけ早く、できれば、前月のうちに決められるのが理想です。同じ90万円の予算でも月のはじめから使えれば、これもあくまで想定ですが次のようにより良い結果にしやすいです。

期間 使う費用 CPC CPA
1日〜10日目 300,000円 188円 18,750円
11日〜20日目 300,000円 188円 18,750円
21日〜30日目 300,000円 188円 18,750円
合計 900,000円 188円 18,750円

あくまで感覚的な想定値ですし、この期間に起きるあらゆる要因に左右されるのでこの通りとはいきませんが、基本的にはこのような変化になるという考え方で間違いありません。

もったいないお金の使い方をしないためにも、予算の割り当て方については次のことに気をつけましょう。

  • 可能な限り少しでも先を見越して考えておく
  • 月の途中で変えるならなるべく早めに決める
    • どうしても後半に変えるなら、費用対効果は悪化することを想定して臨む
  • 予算を臨機応変に変えられる事自体はいいことなので、ある程度の柔軟性は持たせておく
  • 余った広告予算は本当に広告に割り当てたほうがいのか、よく考える
    • 制作するべきものはないのかどうか?
  • 本当に今月使わなければいけないのか、来月に持ち越せないのか、考える

上手なお金の使い方が、すべての土台となる

個人的には広告運用は、守りの施策(安定した成果を出し続けること)と攻めの施策(新たな結果を出すためのこと)とで結果を出すと考えているのですが、お金の使い方は、守りの施策の土台です。守れていなければ攻めることもできません。きちんと固まった足場がなければ飛び立つこともできませんし、型を破るにも型を知らなければ破れません。

お金の使い方は、言わばすべての土台となることです。お金周りの仕様と、お金の使い方とを充分に理解して、さらなる結果を生み出す広告施策を発案して実行していきましょう。