【日本最速】「コンテンツマーケティングワールド2022」参加レポ

2022年9月13日から16日にかけて開催された世界最大級のコンテンツマーケティングカンファレンス「Content Marketing World 2022」についての参加レポートです。 ロバート・ローズ氏とアンドリューデイビス氏のキーノートセッションをご紹介しています。

JADEの伊東です。

2022年9月13日から16日にかけて開催された世界最大級のコンテンツマーケティングカンファレンス「コンテンツマーケティングワールド2022」(Content Marketing World 2022)に参加してまいりました。

この記事では、主にキーノートに登壇した二人のスピーカーのセッションをご紹介します。

同カンファレンスは、”Content Marketing”という言葉を生み出したファウンダーのJoe Pulizzi氏が、その啓蒙の場として開始したイベントです。

「欧米のコンテンツマーケティングでは今、何がアジェンダとなっているのだろう?」

「コンテンツマーケティングに関する新しい視点が欲しい」

こういったことに興味をお持ちの方にとっては、気づきになる何かがあるのではないかと思っています。

いつもは遅筆の私がいつになくチョッ早で書きあげました。
途中、筆をおこうとする衝動にかられるたびに自分の鼻先にパンチしながら書き上げたため、ちょっと内容が粗い部分と血が滲んでいる部分があるかもしれませんがご容赦くださいませ。

イベント会場では、日本の方をお見掛けしなかったので、【日本最速】という最上級表現を使っても捕まらないだろうという確信犯のもとタイトルは決めました(いらっしゃったら気づけずごめんなさい...)。

では、どうぞ!

 

その1:"THIS IS CONTENT"

ロバート・ローズ氏

本カンファレンス初日午前のキーノートはここ数年、Content Marketing Institute(本イベントの主催組織;以下CMI)のChief Strategy AdvisorであるRobert Rose(ロバート・ローズ)氏の話から始まる。

今回は、「コンテンツマーケティングにおける差別化の源泉は何か?」について。

タイトルの"THIS IS CONTENT"を見て、「熱いコンテンツとはこう作るんじゃぁ」のような、”コンテンツ道”的な内容をイメージした方もいらっしゃるかもしれない。

が、意外な一言からプレゼンテーションはスタートします。

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意外と理解されていないことがある。それは、「コンテンツそのものには長期にわたる持続的な競合優位性」はないということだ。

模倣はされるし、表面的なベストプラクティスはすぐに広まってしまう。

水中を泳いでいる魚にとって「水」は当たり前の存在だし、改めて意識することは難しい。

今日、企業にとってコンテンツは水のような存在だ。

コンテンツは遍在しており、その価値を意識することは難しいのかもしれない。

 

コンテンツには持続優位性はないが、戦略的オペレーションにはその可能性がある

コンテンツマーケティングにおいて、大きな成功を収めている企業の例を見てみよう。

ひとつは、Cleveland Clinic(クリーブランドクリニック)。

クリーブランドを本拠地とする医療機関であるクリーブランドクリニックは2012年に開始したHealth Essentials Blogをコアに成長を続け、今日においては同院の認知を広めるツールとしてだけでなく、広告事業やトレーニングサービスなど複数の本業以外の「ビジネスモデル」を持つプロフィットセンターとなっている。

コンテンツチームは当初3名でスタートしたが今や80人が属する大きな組織だ。

もうひとつは、Salesforce(セールスフォース)。

世界最大級のビジネスイベントは、イベントプロモーターによるものではなくソフトウェア企業であるセールスフォースによる”Dreamforce” だ。

同社は最近ストリーミングサービスのSalesforce+(セールスフォースプラス)を開始した。

個々のストリーミングコンテンツは確かに他社もマネできるかもしれない。
しかし、これをスケーラブルに実現するのは難しい。

両社に共通していることは何か、それはコンテンツマーケティングを実現するためのさまざまな「他社とは異なるオペレーションのモデル」を作り上げているということである。

戦略論で有名なマイケル・ポーター氏は、競争戦略についてこのように述べている。

「競争戦略とは他と異なるということだ。意思をもって、一連の異なる行動を選ぶことである」

「ゆえに戦略とは、他と異なる一連の行動を含めた、ユニークで価値のあるポジションを創造することである」

すなわち、コンテンツマーケティングにおける持続的な競合優位性とは、そのコンテンツ(あるいはコンテンツマーケティング)を実行していく一連の行動(オペレーション)の集合体のことなのである。

クリーブランドクリニックのコンテンツチームは、企業における財務部門や会計部門、セールス部門と同じ企業における戦略的機能(Strategic function in the business)になっている。企業のビジネス戦略の中に統合されていると言えよう。

CMIでは、初めてコンテンツマーケターの報酬やキャリアについての調査を実施した。

嬉しい結果は、56%の回答者が自分の仕事が楽しいということ。

一方で、67%は自身の次のキャリアパスが見えておらず次の仕事も模索している、というものだった。

これは、多くの企業にとって、まだコンテンツ担当者あるいはコンテンツチームが会計やセールスと同じ戦略的機能と位置づけされるに至っていないことの表れであり、課題である。

しかし、企業をとりまくここ数年の大きな変化は甚大であり、それに対してコンテンツマーケティングは大変重要な役割を果たすはずである。

その変化とは、

  • 対面でのコミュニケーションの希少性が高まっている
    • その結果、デジタルエクスペリエンスは対面コミュニケーションのプロキシとしての役割を担う必要があり、その洗練が求められている。
  • プッシュ型コンテンツの復活
    • 私たちのアテンションスパン(Attention span;注意力)には問題ないが、忍耐力はなくなっている。常に的確なレコメンデーションがなされることをオーディエンスから期待されている。私たちは、すっかりTikTok的な世界に慣らされてしまっている(We’re tik-tokked)。
  • 企業が信頼を得ることのハードル上昇
    • 企業が社会に示す信条に基づいて、消費者の58%は購買をし、60%が雇用先を決め、80%が投資をする。

このような大きな動きに対して、もはや「ただコンテンツをどんどん作る」(More and more content)だけでは対処はできないはずで、戦略的アプローチで立ち向かうことが必要だ。

新しい人的リソースをコンテンツ制作に充てるのではなく、コンテンツを最適に管理し、多様なオーディエンスに対してスケーラブルに体験を提供できるようにしていくための他とは異なるオペレーションモデルの構築にこそ割り当てていくべきである。

これこそがコンテンツの価値(THIS IS CONTENT)である。

 

その2:Top-Down creation:how clever content creators leverage tiny audiences to deliver outsized results(トップダウンに向けたコンテンツ作り:クレバーなコンテンツクリエイターはいかにしてわずかなオーディエンスで大きな成果を生み出すか)

 

 

アンドリュー・デイビス氏。Why take sooooo loooongと嘆いている。

続いて、紹介するのはAndrew Davis(アンドリュー・デイビス)氏。
コンテンツマーケティングワールドのキーノートの特徴として、主催者以外のキーノートスピーカーは前年イベントでのセッションで高評価を得た人から選ばれるというルールがあります。

アンドリュー氏は、私が過去に参加した中だけでも2回キーノートに登場しており、いつも人気のスピーカーの一人です。

このセッションでは、「コンテンツマーケティングは成果を出すのになぜ長い時間がかかるのか」という問いかけから始まり、それへのソリューションを提示する内容となっています。

これぞコンテンツマーケティングの発想、と感じさせてくれるセッションです。

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ジョー(Joe Pulizzi; CMIファウンダー)も、アン(Ann Handley; 著書“Everybody Writes”が有名なコンテンツマーケター)もコンテンツマーケティングはロングゲームだ、マラソンだという。

コンテンツマーケティングに関わっている人たちは、CMOも顧客も、我慢強い人たちばかりが集まっているのだろうか?

 

コンテンツマーケティングはロングゲーム、でもそんなに時間がかからなければいけないの?

典型的なコンテンツマーケティングの取り組みを見てみると、「Googleサジェスト」、「Peope also ask」や「Ubersuggest」などを使いながら想定される見込み顧客が疑問に思うような話題に対してのアンサーとなるコンテンツを作ることに奔走している。
また、そのようなことを推奨するアドバイスコンテンツで溢れている。

戦略はシンプルだ。すなわちFAQコンテンツを量産。

しかし、その戦略はすでに賞味期限を過ぎている。

コンテンツマーケティングにスピードをもたらすもの、それはFAQ(Frequently Asked Questions; よくある質問・疑問)ではなく、RAQ(Rarely Asked Questions; めったにされない質問)である。

RAQはマーケットを作る力がある

 

ヘッドレスコマースのAPIを提供するcommercetools社の話を例にしよう。

同社のコンテンツマーケティングを担当するStephanie Wittmann(ステファニー・ウィットマン)氏は、ヘッドレスコマースがポピュラーになっていない(=誰も検索しない)時代に、ヘッドレスコマースに関する情報発信を行い、同社の売上を短期に900万ドルから9200万ドルに向上させることに大きく貢献した。

何を行ったのか。

彼女は、オーディエンスへの洞察を踏まえてテクノロジー企業のCTOのみが持つであろう疑問を想定し、それに応えるコンテンツを提供する戦略にフォーカスしたのだ。

そもそも組織のメンバー層や、マネージャー層、エグゼクティブ層とCXO層(CEOやCMO,CTOなど)では事象に対する問いが違う。

CXO層は、「Why(そもそもなぜ?)」や「How to think(どうとらえるべきか)」を考える。
エグゼクティブ層は「How should we(私たちはどうあるべき?)」、マネージャー層は「How do they (どうのようにしてメンバーを動かすか)」、メンバー層は「How do I (私はどうすべき?)」という観点での問いを持ち、その意図が検索行為として現れる。

コンテンツマーケティングで言えば、メンバーは「コンテンツマーケティングにはどれぐらい時間がかかるだろう?」という思考をするが、CMOは「そもそもなぜコンテンツマーケティングは時間がかかるのか?」を考える。

CXO層のオーディエンスベースは確かにわずかだ、しかし彼ら・彼女らに届けば、そこからの意思決定には「トップダウン」の力が働く。

メンバーからの「ボトムアップ」よりも、「トップダウン」のほうが組織内での影響力は断然大きく、取引成立までの期間も短く、高いマージンを期待することができる。

つまり、FAQは現場のメンバーにとって有益なものだが、RAQは市場を創造する。

トップダウンの影響力ピラミッド

メンバーの疑問・問いに応えるFAQではなく、キーステークホルダーに届くRAQこそがコンテンツマーケティングの成果を早める道というのはこういう理由だからだ。

実際には、メンバーの疑問に答えるFAQコンテンツのボリュームを1とし、それ以上の階層のオーディエンスに向けたコンテンツを4ぐらいで考えるのが良いだろう。

私たちコンテンツマーケターにとって必要なのは、「もっとコンテンツを作る」ことではない。

そうではなく、洞察に基づき、オリジナルな問いを立て、それに応えていくことなのだ。

FAQではなくオリジナルな問いを立て、それに応えるコンテンツを用意しよう

Googleが答えられない問いに答えよう(Answer the questions Google cannot answer)。

全体所感

本カンファレンスはキーノート以外は、同じ時間帯に複数のブレイクアウトセッションが行われるため、カンファレンス全体への感想は聴講するセッションが異なれば、人によって随分と違ってくるだろうと思います。
キーノートは全員参加のセッションのため、どういった問題意識が共有されているのか、あるいはトレンドがあるのかといった全体感を察するには適切かと思い今回はこちらの2つをご紹介した次第です。
カンファレンス中に、JADEの公式Twitterアカウント(@_jade_kk)でもセッションの様子をスレッドにまとめておりましたので、よろしければこちらもぜひご覧ください。

コンテンツマーケティングワールド2022セッションまとめ

機会があれば、面白かったブレイクアウトセッションの話もご紹介できればと思っていますので、Twitterにリプライなどいただけると嬉しいです。

おまけ

コンテンツマーケティングワールドに関するそのほかの雑感です。

  • めちゃくちゃ女性参加者が多いカンファレンスです(昔から)。参加者のマジョリティはSEOの人ではなく、編集者という感じ。
  • SEOのセッションには伊東は参加しません(レベル的には、SEOの専門カンファレンスのほうが高いから)。ストーリーテリングやコンテンツ戦略など、本カンファレンスならではの優良セッションが他にあります。
  • 来年からはワシントンD.C.での開催に変更になるようです。
  • 「定点観測するカンファレンスをひとつ持つ」というのは良いアイデアだと個人的には思っています。大きな変化は感じづらいですが、ちょっとずつトレンドが変化している点などを感じられると、その後の仕事の重点が少し変わったりします。
  • セッション自体は30分程度が多いのですべてを深く学ぶというのは難しいです。概要やイントロダクション的な情報を得るという感じでしょうか。有益なセッションであれば、スピーカーのTwitterやLinkedlnをフォローして自らの情報源にして継続的に情報収集する、というスタンスがオススメです。