いわゆる運用型広告と言われる広告、特にGoogle広告やFacebook広告あたりは、どんどん扱いやすいものになっていっていますが、その反面、何がどうなっているかわかりにくくもなっています。
自動化が進んで設定と運用は簡単になったけれど、ターゲティング機能や配信面や広告フォーマットなどが複雑かつ多種多様になっていっているということが大きいのですが、実際の運用をしていない方からするとちょっと何を言っているかわからないでしょうしこちらとしても自分で何を言っているかよくわからなくなるのですが、
広告運用者以外の方と運用実務の担当者とが少しでもスムーズに意思疎通できるよう、知っていただきたいことを書きます。
(株式会社 JADE 小西一星)
わかりにくいけど、扱いやすい
わかりにくいことの例えの話を一つ。
かつて手動設定と入札管理が当たり前の頃、Google広告(当時はGoogle AdWords)では、こういったレポートになることがありました。
(※数字はダミーです)
とてもきれいに整理されたアカウント構成で、わかりやすいレポートですね。
予算に余裕があるときはCVRとCPAの良い顕在ワードのキャンペーンに費用を割こう、そこももう伸ばしにくいからやっぱり潜在ワードのCVRを上げるべく広告とページを考えよう、などなどと、次にやるべきことをとても考えやすいです。
キーワードごとにいくらかけるのか、どのキーワードでどの広告を配信するのか、人が考えて手動でコントロールしている範疇が大きかった頃は、こういった構成とレポートが良いものでした。
さらに、キーワード以外の要素、PCかスマホか、男性か女性か、などなどあらゆる細かい条件ごとにキャンペーンもしくは広告グループを分けることができ、がんばればがんばるほど複雑な構成になるものでした。
あまり複雑にしすぎると管理しきれないですし、成果に影響のない要素まで踏まえてしまっては意味がないので、どこまで細かくちょうどよく複雑にするのかが、広告運用者の腕の見せどころの一つでした。
構成を見ればその運用者が何を考えているかわかりましたし、デキる運用者が作ったアカウントは何も聞かずに引き継いでもらっても運用しやすいものでした。
ただし今のGoogle広告では、必ずしもこういった構成が良いとは言えません。
どの広告がどの検索クエリ(広告管理画面上の名称は「検索語句」)で配信されると成果が良いか、システムが勝手に判断するので、顕在系だ、潜在系だ、という意図だけでキャンペーンを違える必要はありません。
自社ブランドワード用とした広告と一般名詞ワード用とした広告とがあったとしても、それぞれその検索クエリでそれぞれの広告が狙ったとおりクリックされるものだとは限らないので、ブランドワードと一般名詞だからといって必ずしもキャンペーンを違える必要はやっぱりありません。
また、機械学習のためには無駄な細分化は避けるべきでもあります(必要な細分化はOKですが)。
となると、アカウント構成とレポートがこうなることがあります。
わかりにくいですね!
何がどう良くて何がどう悪いんだかよくわかりません。
まぁ、さすがにこれは極端な例ではありますが、まるっとまとめたためにパッと見で状況を把握しにくい、という事態になりがちです。
いやいや、キーワード、クエリ、広告単位でなんか上手いこと見ればいいじゃん、とも思えますが、どう集計するのか、毎回集計するのかという問題もありますし、粒度の違う要素それぞれでそれぞれのわかりにくさがありまして、話し出すとキリがありません。やっぱりとにかく把握はしにくいです。
では実際に配信された結果がどうなっているのか、広告と検索クエリとを細かにしっかり確認してみると、とってもいい感じどころか思った以上に良い状況を作り出していることは多いですし、それでいて設定も入札管理もとっても楽ですし、じゃぁいいか、となります。
わかりやすさを除けば、とにかくいいことだらけです。
わかりにくいのに、扱いやすいのです。
わかりにくいけど、これでいいのです。
(※例外はあります)
とはいえ、わからないというのも困る
何がどうなっているかわからないと、次にどうしたらいいかがわかりません。
よくわからないけど深いこと考えずにとにかく新しい施策をがんがん投入してオートマチックなシステムに任せるのだ、というのもナシではないところがこれまた今の広告システムのすごいところではありますが、さすがに新しいことを考え続けるにも限界がありますし、アタリくらいはつけたいものです。
どう把握するのがいいのか
今は昔のように、どのキーワードでどの広告を配信してどうだった、というシンプルなものではありません。
どの広告が、どういう形で、いつ、どこで、どのデバイスで、誰(これが実にいろいろ含む)がなんと検索したときに配信されてどうだったか、というものであって、かなり多種多様な要素が複雑に絡み合います。
なので、エクセルで定型のシンプルな一覧表にするという方法では把握は難しいです。
方法はいろいろ考えられますが、根本とするべきイメージは、
1クリック(場合によってはインプレッション)に紐づくすべてのデータ(広告、クエリ、キーワード、デバイス、地域、時間、ユーザー属性、オーディエンス設定、その他可能な限りのすべての要素)を抽出し、1ヶ所にまとめ、任意の条件で抽出して集計する、ということです。
現実的には1クリック単位というのは難しいですが、イメージとして。
私がよくやっている例をお話します。
私は基本のイメージが
広告 > クエリ&いろいろ > 広告グループ > キャンペーン
です。
広告が基点です。
具体的なレポートの形式は様々ですが、イメージとしては、次のようなもので広告の配信結果のレポートを作ります。
文字の大きさの違いが、各広告が配信された条件それぞれの出現率の高さ低さだと思って見てください。
こうしてみると、顕在的なクエリは比較的若い女性が検索しつつ広告Bの文言に反応するということがわかり、ではその人たちがさらに反応する文言は?と考えることができます。
また、潜在的なクエリでCVRを上げるには、40歳前後の男性が多いからその人たち向けにはどういったコンテンツにするべきか、ということを考えることができるようになります。
こういった集計とレポーティングをするにはデータウェアハウスとBIツールが使えるのが理想ではありますが、それに似たものか、発想だけでもあればなんとかなります。
Google広告であれば、広告管理画面上でも「分割」機能を使うだけでもいろいろなことがわかります。
レポート画面で作ってエクスポートしたcsvファイルをBIツールに反映するか、Googleアナリティクスに広告データを連携してGoogleデータポータルに反映するだけでも、十分すぎるほどです。
以上は一例ですが、他にも様々な観点から配信結果を探ることはできます。
いずれにしても キャンペーン > 広告グループ > キーワード というような構成に囚われず、自由に横断的にデータを抽出して集計することで、何がどうなっているかわかりにくい今の広告システムのことを少しは探ることができるようになっていきます。
ちなみにこの例のように確認してみると、やはり広告の内容が、実際に広告の配信のされ方に大きく影響を与えていることがわかります。
狙ったユーザーからのクリックを増やすためにはそうなる広告を作るべき、ということですが、外すと、狙っていないユーザーからのクリックが増えます。
狙った検索クエリをカバーするキーワードの入札単価を上げたのにクリックは増えませんでした、なんでだ、となったとき、この辺に原因があることがありますが、これもこれで探らないとわからないという、わかりにくいことの一つなわけです。
とはいってもやっぱりわからないこともある
こんな経験があります。
コンバージョン数の最大化をオンにしたら、特定の検索クエリのコンバージョン率が0.3% → 3%になりました。
なるほどこの検索クエリが良いということがわかったんだな、では手動入札でこの検索クエリが完全一致するキーワードを入札し入札単価を上げて臨もう、と自動入札をやめたら、コンバージョン率は0.3%に戻りました。
それからまたコンバージョン数の最大化にしたら、また3%になりました。
これが面白いくらいに、入札戦略を変えた日からいきなり、きれいに10倍、でした。
その検索クエリで広告が配信されたときの条件が何か変わったか、いろいろ探りましたがさっぱりわかりませんでした。
推測できることはあるものの、
こんなもの、説明はできません。
機械学習と自動化が進んだからなのかどうなのか、こういうことは増えました。
どこまでわかろうとするか
社内運用か外注かに関わらず、予算を出している立場としては説明責任は求めるでしょうし、運用担当者は説明する責任があるでしょう。
「よくわかりませんがコンバージョン数は◯◯件です」なんていうわけにはいかないでしょう。
ではどのくらい、どういった形で説明をするのがよいのか、この問題に大正解はないと思いますが、まずは、わかりにくい範疇が多いということと、探れることがあるものの大変だしなんでもかんでも探れるわけじゃない、ということを関係者全員で認識したうえで、
- 結果だけを知るための定型レポートは簡単でいい
- 分析レポートは何を知りたいか、何を伝えるべきか、集中してしっかり探る
と、限りあるリソースをどこに割くべきかメリハリをつけて意思疎通ができるよう、よく話し合ってから進めていくといいでしょう。
運用型広告は変化のスピードが早いため、関わる人々の理解や解釈などの違いも大きくなってきています。
個人個人においては、自らの認識だけでなく相手の認識が現在どうなっているかを常に互いに気にかけながら意思疎通をはかり、チーム全体においては、目指すべきところはどこなのか常に全員で同じ方向に視線を向けて進めることで、広告プロモーションを成功させたいものです。