先週、(株)はてな様の「週刊はてなブログ」誌上にて、はてなブログBusinessプランのリリースを記念して、名古屋を地盤に企業ウェブサイトのコンサルティングを手掛けてらっしゃる運営堂の森野誠之さまと「地方の小さな会社によるオウンドメディア活用の可能性」をテーマに対談させていただいた模様が記事として公開されました。
ニッチを攻めるとスケールしない、はホント?
さて本題。
冒頭で地方ではチャンスはあるとは言いつつ、大きな流れとしては「コンテンツは飽和」という話をしました。この傾向はたしかにあります。
以下は、2018年のBuzzsumoによるレポートからの抜粋ですが、CONTENT SATURATION(コンテンツ飽和)により、個々のコンテンツが注目を集めることのハードルがどんどん高くなってきていることが報告されています。
加えて、近年はテキストコンテンツ以外にも、ビジュアル(画像、動画)、インタラクティブコンテンツ、音声などフォーマットの種類も多種多様となってきました。
新型コロナウイルスによる外出自粛の影響などで動画プラットフォームYouTubeの利用機会が大幅に増加したことは皆さんも感じていることと思いますし、コロナの感染者数トレンドをビジュアルに示す「ダッシュボード」型のインタラクティブコンテンツは、さまざまな公的機関(例)や新聞社サイト(例)、雑誌社サイト(例)で立ち上げられ、毎日チェックしていらした方も多かったのではないでしょうか。
量も種類も確かに増えて、際立つことが難しくなってきたコンテンツ。
そこで、「レッドオーシャンは厳しい、だから競合の少ないブルーオーシャンで行こう」と、比較的ニッチな領域でのコンテンツマーケティングに舵を切る判断というのはオーソドックスで正しいものと思います。
ただ、この場合、ニッチから始めたあとの将来の拡大イメージが描けないことによる、「ニッチがニッチのままでいつまでもスケールせず、トラフィックもビジネス成果も小さなままだとどうしよう」という不安もつきまといがちです。
そんな思いに悶々とした状態が続き、大事な一歩が踏み出せない方もまだまだ多いのではないでしょうか。
ただ、私は、2020年現在(そしておそらくこれからも)、小さく始めることには今まで以上にポジティブな意味があると考えています。
正しく読者とつながることの重要性
小さく始めるとは、要するに「最初は少なくても良いから、”ちゃんと私達が届けるストーリー(コンテンツ)に耳を傾け、ときに意見をくれる”」オーディエンスを持つということです。
このフェーズにおいては、たくさんのページビューは期待できません。
しかし、とても高いエンゲージメント(=前のめり気味にコンテンツに接してくれる状態)は期待できます。
そしてコンテンツに対する高いエンゲージメントは、今、主要な情報流通チャネル(検索エンジン、ソーシャルメディア、メール等)においてリーチを高めるための最も重要な要素のひとつでもあります。
例)
- 検索エンジン:良質なユーザー行動により、ビジビリティ(Visibility)が向上
- ソーシャルメディア:高いエンゲージメントの投稿はソーシャルリーチが向上
- メール:開封されしっかり読まれるメールは、メール到達率(Email deliverability)が向上
規模は小さくとも理想的なオーディエンスによる前のめりなコンテンツ消費は、これらプラットフォームに対して「良いシグナル」として伝わます。
シグナルの改善は、各プラットフォーム上での「見つけられやすさ」や「情報到達」に好影響を与えるものです。
すなわち、「正しいオーディエンスへ届ける」→「シグナルが改善する」→「より多くのオーディエンスに届く」→「オーディエンスのベースが増える」→「次回のコンテンツのリーチが広がる」→「シグナルが改善する」→続く、のサイクルを創り出すことにつながります。
対談記事の中で森野さんは、「最初から1000人に届けよう」とするのではなく、「”この人にだけ届けたい!”という一人を想定することが重要」だとおっしゃっていました。
そしてその一人を設定するにあたっては、「ペルソナ」として作り上げるよりも、「実際のお客さんを想定した方が、ブレずに強いコンテンツが生まれる」とおっしゃっています。
とても具体的で有益なアドバイスと私も思います。
例えば、取引先から頻繁に受ける定番の質問がわかっている場合、その質問と回答をセットにしたコンテンツを用意すれば、「届ける相手」と「コンテンツ流通」がとても明確なコンテンツマーケティングのひとつの形になりますよね。
大事なことは、オーディエンスとの”意味ある”関係の構築。
この構築プロセス(Audience Building)を正しくおこなうことができれば、コンテンツは「大きく育つ」可能性が高まる、と私は考えます。
小さく始めて成功するコンテンツマーケティングのポイント
さて、このような取り組みをすすめるにあたっては、いくつか大事な「考え方」や「心がけ」があると考えています。
以下、これらを列記しながらお話しできればと思います。
大事にしたい指標は、「サブスクライバー」
サブスクライバー(Subscriber)とは、「加入者」や「購読者」という意味です。
ニュースサイトなら電子版の無料版/有料版の購読者、ウェブメディアなら会員数、メール主体サービスならニュースレター購読者数、Twitterなどソーシャルメディアならフォロワー、YouTubeならチャンネル登録者、...などが該当します。
「コンテンツが更新されたときに知らせて欲しいという意思表示をしてくれている人たち」と言い換えても良いかもしれません。
先ほど述べたサイクルを構築することを目指すなら、ページビューやユニークユーザーよりも、この「最初に情報が届いてエンゲージしてくれる相手」となるサブスクライバーの成長を重要指標として管理していくことは理にかなっています。
逆に言えば、何かしらの「購読登録」する形がコンテンツ施策の設計の中に含まれていなければ、「小さく生んで大きく育てる」成長サイクルを効果的に作り上げることのハードルは上がるのではないかと考えます。
米国のContent Marketing Institute(コンテンツ・マーケティング・インスティトゥート;略称:CMI)で、Cheif Strategy Advisor(チーフ・ストラテジー・アドバイザー)を務めるRobert Rose(ロバート・ローズ)氏は、コンテンツマーケティングは、サブスクライバー化を起点とした関係深化を通じて、一人ひとりの価値が拡大する「逆ファネル」のイメージでオーディエンス構築の重要性を説いています。
ちなみに、はてなブログにおいては、「読者機能」という簡易的な購読機能がついており、サブスクライバー的な活用が可能です。
チャネルは一つに絞ろう
一つの取り組みがなかなかうまくいかないとオウンドメディアだけでなく、メールマガジンもやって、Twitterもやって、インスタもやって、”最近は動画も流行っているしこれもやらないと”...と、ついつい新しいことや魅力的なチャネルに触手を伸ばしたくなったり、焦ったりしがちです。
ただ、すでにコンテンツで溢れかえっているネット上において、”そこそこ”のコンテンツではなかなか勝負にはならないという厳しい現実も理解する必要があります。
人がコンテンツにかけられるエネルギーは有限です。その限られたパワーを一つのフォーマット・チャネルに集中投資することをまずは心がけてください。
CMIのファウンダーであるJoe Pullizi(ジョー・ピュリッツィー)氏は、このコンテンツにかけるエネルギーをチョコレートにたとえて、チャネルを絞ることの重要性を説いています。
ちなみに核となるチャネルでのオーディエンス構築で成果が出てきたあと、チャネルの多様化(Diversifying channels)の重要性も同時に説いています。
テレビ番組のような「一貫性・継続性」にコミットする
これは、あらかじめ決めた頻度でコンテンツを公開し続けることにコミットしましょう、ということです。
将来に向けて約束する話なので地味に覚悟が必要なのですが、そうするだけの価値はあります。
これによる期待効果は、オーディエンスがコンテンツを心待ちにする態度・習慣の形成です。
テレビドラマのことをイメージするとわかりやすいかもしれません。
つい先日まで、かなりの数の日本人はドラマ「半沢直樹」を心待ちにしていたのではないでしょうか(私もその一人。最終回視聴率は44%越えとのこと......!)。
すなわち、「毎週日曜日」の「夜9時」の「TBS」にはテレビの前に座って「半沢直樹待ち」をするという習慣を人々が形成していたのでした。
きっと「相棒」ファンも、新シーズンがスタートすれば、「毎週水曜日」「夜9時」には、チャンネルを「テレビ朝日」にする習慣が発動するはずです(「相棒19」楽しみ)。
2年前、米国で開催された世界最大級のコンテンツマーケティングイベント「Content Marketing World」に私が参加したとき、ビデオマーケティングの情報収集目的で関連セッションを意識的にたくさん聞いたのですが、特にYouTubeチャンネルの育成にあたっては、どのスピーカーも必ず配信の「一貫性(Consistency)」が重要な鍵の一つだという話をされていました。
私が参加したセッションに登壇した某アメリカ人女性ユーチューバーは、ライフハックをテーマにしている方でしたが、毎日更新をコミットしていました。
かつ、曜日別のトークテーマ(月:レシピ、火:オシャレ、水:便利ツール...)もかっちり決めることで、「オーディエンスが適切な期待を持ちながらコンテンツにエンゲージしてくれるのよ!」と語ってくれました。
「一貫性」の重要性は、動画コンテンツだけの話ではありません。
TWIPEというベルギーにあるニュースメディア向けテクノロジー企業は、読者が特定のニュースメディアの習慣的な購読者になる(Habit forming)までには平均66日が必要で、これをベンチマークとして想定読者の生活行動内でのタッチポイントづくりの設計をしていくことが必要だというレポートを出しています。
国内の身近な成功事例のお話をします。
対談でご一緒した運営堂の森野さんは、「毎日堂」というマーケティング関連の重要トピックをまとめたメールマガジンを”毎日”配信されています。
コンテンツマーケティングっぽい話ではないですが、「強いコミット」の価値の例として名刺管理アプリのEightの話もさせてください。
「買わない」人とつながることにも価値がある
(意訳)
新しい顧客を惹きつけるための秘訣。
それはコンテンツを、あなたのターゲット顧客(買う人=Buyer)に対してよりも、ネット上で影響力がある、拡散を増幅してくれる可能性の高い人をより意識して作ること。
コンテンツ企画のコツ
Sweet SpotとContent Tilt
- 「2分でできる簡単レシピ」(3分クッキングよりも高速!)や、「エクストリームレシピ」(なんかすごい見せ方する)など角度のついた切り口
- 「マンガで見たあの美味しそうなレシピの作り方を動画で」、「車の運転中にインプットできる声で聞くレシピをポッドキャストで」、などチャネルを意識した切り口
など、コンテンツの提供方法にオリジナリティを持たせることで、溢れかえるレシピコンテンツのなかで”際立つ”可能性がでてくるといのが、Content Tiltです。
思考実験:地方の観光活性化企画のSweet SpotとContent Tilt
このコンセプトを使って、ちょっと企画のブレストをやってみましょう。
私は、高校・大学時代の約9年間、京都にご縁があったので、京都市の観光コンテンツマーケティング企画を考えてみたいと思います。
- 立場:京都市役所の観光行政担当者
- 課題:国内観光のメッカだが、集客が人気スポットに大きく偏り気味。リピート訪問を促すためにも、定番観光地以外の京都市内の知られていないローカルスポットの魅力を伝え周遊を促したい(課題は妄想)
だとします。
この担当者の気持ちになって、コンテンツ企画の目論見を考えるなら...
Sweet Spot:
- 専門性や情熱:京都市の魅力あるスポットを隅々まで知り尽くしている
- オーディエンスニーズ:ありきたりじゃない京都の魅力あるスポットを知りたい
が交差するところ。
Content Tilt:
- 京都市の通りの特徴である「碁盤の目」軸で京都ローカルスポットを紹介する
- 紹介記事末尾には、手作り感あふれるイラストマップを用意し、紹介されたスポットをプロット。PDF版の出力もできる
図にするとこんな感じ
- 「碁盤の目」で探せるという、全国対応が前提の大手サイトがやらない切り口でオリジナル感を出す(「東山近衛特集:京都大学吉田寮近辺を散策!」など)
- 市内を走るタクシーの運転手さんにとっては、通り名のほうが伝わりやすいので、ユーティリティー性も実は高い
- 親しみの湧くイラスト地図で、「印刷して旅のお供にしようかな」という感情を引き出す
- 旅行者自身が、ちょっと”通になった気分”に浸れるかもしれない
ちょっとあまり洗練されていないかもしれませんが(汗)、でもこのフレームワークは強い企画を考えるときのツールとしてはとても有用と思いますので、皆さんもぜひ試してみてください。
最後に...CMSプラスαの用途が魅力のはてなブログ
さてさて最後に、今回お話したコンテンツマーケティングの取り組みを、オウンドメディアを軸に展開する場合、「はてなブログ」には色々とアドバンテージがあると思っています。
ただ、はてなブログには単なるCMSとしての側面以外の面白さがあると思っています。
1.はてなのユーザーコミュニティ(はてなブログ、はてなブックマーク)に届けるイメージでコンテンツを作るとうまくいきやすい
2.簡易的なサブスクライバー機能あり(読者ボタン)
3.最新SEO配慮(常にアップデート)
4.はてなブックマークユーザーのTwitter連携率が高い
1の「コミュニティに届ける」をうまく設計するにあたっては、ブクマコメントを丹念に読むのはとてもオススメの方法です。
たとえば、上記のようなコメントを読み込めば、「横浜についての記事を書く時は、神奈川県内の他の地域の人たちの気持ちも考慮しよう。ちょっと緊張...!」など、アプローチ手法についての事前リサーチが色々とできます。
また、4のTwitter連携率の高さは、はてな内での盛り上がりが、あるタイミングでTwitterにも解き放たれ、より幅広いオーディエンスへコンテンツが到達するポテンシャルにつながります。
こういった魅力的な付加価値が一体となっているのが特徴のはてなブログは、「ターゲットを意識した戦略的なコンテンツ作り」に気持ちとリソースを集中できる良さがあるCMSではないかと思っています。
というわけで、タイトルも前のめりなちょっと長めの記事でしたが、2021年に向けて野心をもってコンテンツマーケティングに挑戦される方に参考になる内容となっていれば幸いです!
*注:LINEトラベルさん、ネタに使ってごめんなさい。悪気はないです。郷里・奈良をご紹介いただきありがとうございます。
対談企画のその他の補足記事はこちら