SEOはどんどんシンプルになってきました。そして、SEOはどんどん複雑になってきました。
正反対のことです。しかしそれが両立するのがいまのSEOです。関わるサイトやそのターゲットなどで求められるSEOは大きく変わるため、このような反対のことが正しいのです。
この記事では、SEOのシンプルさと複雑さの解説と、それを踏まえたSEO情報への向き合い方について解説します。
(株式会社JADE 辻正浩)
よりシンプルになったSEO
最近、SEOはよりシンプルになったと言えます。それは日本において圧倒的なシェアを持つ検索エンジンGoogleの性能が急速に上がったことが原因です。
良いコンテンツを作ればそれだけで検索から集客できる状況が増え続けています。検索ユーザを満足させること、それだけを意識していけば多くのサイトではSEOを成功させられるようになったのです。
これが10年前でしたら、どれだけ良いコンテンツを作っても十分なリンクが張られないことには上位表示されづらいものでした。しかしいまは全く外部サイトからリンクされていないページが難関キーワードで上位表示されるケースも目立ちます。
以前は「引っ越し」「引越し」「引越」というような表記のブレも強く意識して、検索キーワードを意識したテキストライティングを行う必要がありました。今はそのような事はありません。検索される文言すら入っていなくても上位表示されるケースも増えました。
以前は、検索エンジンはJavaScriptを一切評価できませんでした。今では非常に高いレベルで認識が可能になりました。
以前は、とにかく検索エンジンの不具合など、検索エンジン側の問題によってWebマスターが翻弄されることが多かったのですが、最近は「比較的」減ったと言えます。
つまり、昔は検索エンジンのためだけにやらなくてはならないことが多くありましたが、今はそれらの多くを無視できるようになりユーザの事だけを考えれば良くなったのです。
昔の検索エンジンのデータ元はクローラが得た各サイトのHTML情報がほとんどでしたが、今では様々なものを評価元に使っています。ページの価値判定はより現実に即したものになり、人間の評価と検索エンジンの評価がどんどんと近づいてきました。人間にとって使いやすいものにすれば検索エンジンにも評価される、という望ましい状態が増えています。
「良いコンテンツ」を作ることにより集中できることになっているわけで、SEOはシンプルになったと言えます。
より複雑になったSEO
しかしこの事は、すべての状況に当てはまるわけではありません。
インターネット、wwwに対する要求と複雑さははどんどん増しています。それに対応するSEOにも複雑さが求められるようになっているのです。
テレビで最新ニュースを見て、すぐに手元のスマートフォンで検索するとそのニュースの詳細情報を知ることができます。それも大手ニュースサイトだけではなく、個人サイトやSNSなど様々な情報ソースから多面的な情報が得ることができるでしょう。
これは当然のことと思われるかもしれません。しかしこれはたった10年前にも実現できていなかったことです。
株式会社アイレップの渡辺隆広さんによる2010年6月段階の調査では、その頃は一件目の最新ニュースが検索結果に現れるまでにGoogleで10分、Yahoo! 検索では150分も必要だったとのことです。
さらに2~3年さかのぼりますと、ほとんどの検索結果には数時間前の情報もほぼ表示されていませんでした。
それが今では、多くのニュースは1分以内に検索結果を埋めるようになりました。
このような劇的な検索結果の進化は検索エンジンの進化によるものです。
10年前はクローラの挙動は今に比べてシンプルでした。発見したURLを片っ端から訪問するシンプルな挙動が多く、Webマスター側で来てほしいページにクローラを誘導するのも容易でした。
しかし今のクローラは、それぞれのページの重要性や更新頻度を元に、複雑にクローラの配分を変えるようになっています。その結果、先のような新鮮な検索結果を表示できているわけですが、クローラの挙動としては複雑になり、巨大サイトで求められるクローラの制御は頭を抱えるほど難しいものになりました。
このような、検索エンジンとwwwの進化に合わせてSEOに必要とされる対処は複雑化している部分が多くあります。
多言語・他地域向けサイトでは言語認識や表示URL制御ための対応や複雑なhreflangの処理が必要です。
複雑な動的サイトでは複雑なnoindexやcanonicalの取り回しが必要です。
一部の種別の情報の発信のためには「構造化データ」も重要になりました。
JavaScriptは検索エンジンの対応が進んでいるものの、無限スクロールなど多くの仕様は検索エンジンには一切認識されませんので、特別な配慮が必要です。更にサイトの表現の方法次第ではDynamic Renderingなどの非常に複雑な技術を採用する必要もあります。
過去、画像の有無は一切Web検索に影響無いものでしたので、サーバ負荷に悩む巨大サイトでは検索エンジンの画像アクセスをブロックしていたことも多かったですが、今ではそのような対応は様々な面で不利な状況に繋がります。
検索ユーザの要求レベルの向上と、検索エンジンの仕様の複雑化が進んでいるため、以前は諦めていたような部分にも細かい設定が必要になったのです。
更に、今の複雑化した検索エンジンの仕様を超えて競合よりも有利に立とうという状況では、更に増して複雑な対応が必要とされます。
このように「良いコンテンツ」を作ることとは別に、検索エンジンのためだけの施策を行う必要性が増えて続けているのが現状です。SEOはより複雑さを増していると言えます。
SEO情報の断絶
ここまで、サイトのターゲットやタイプ、求めることによってSEOはよりシンプルになったり、より複雑になったりしていることを書いてまいりました。
この状況でWebマスターが注意すべきことは「SEO情報の断絶」です。どんどんシンプルになっているSEOで注意すべきことと、どんどん複雑になっているSEOで注意すべきことの乖離はどんどん広がっているのです。
サイトの規模やタイプによって必要とするSEO情報は異なります。ひとつのサイトにはベストプラクティスでも、別のサイトには悪影響、ということが多いのです。
一般企業のコーポレートサイト向けのSEOのノウハウはブロガーには役立たないことが多いでしょう。アフィリエイターのノウハウは企業向けに使えないことも多いものです。巨大サイトのSEOのノウハウは通常サイトにはほぼ不要です。
そのように、SEOの情報は分断されているのです。そしてそれを見誤るケースも多くみられます。
本来、複雑な仕様に向き合って技術的なSEOに取り組む必要があるWebサイトの担当者が、サイトの致命的な問題に目をつぶって「良いコンテンツを作れば評価されるはず」とコンテンツ制作に費用を投下している姿をよく見ます。
シンプルにユーザに向けた価値向上だけを目指せば良いWebサイトの担当者が、コンテンツの価値を後回しにして技術的な些細な問題解決に集中している姿をよく見ます。
ユーザ第一というシンプルな目線と、複雑化するWebと検索に対応していくための複雑な技術要件。この2つが別れていることを把握した上でSEOの情報を取り入れない事には、大きな損失を受けることになります。
断絶されたSEO情報と向き合うために
では、どのようにして自分に向いたSEO情報かを判断するべきでしょうか。
数十ページの企業サイトには判断難しいことではありません。SEOの情報は基本的に無視する形で良いはずです。
検索エンジンの仕様は日々変化を続けていますが、すぐに対応を必要とするもの、対応することで明確な利益が得られるものはごくわずかです。そのような新情報には目を向けず「サイト訪問者の体験」の改善に配慮していれば十分です。
SEOの情報の取捨選択は誰にでも出来ることではありませんが、「サイト訪問者の体験」の向上のための取捨選択は一般的なWeb制作会社であれば当然行えます。
SEOの情報収集にリソースを費やすのであれば、その時間でユーザに向き合うべきです。数十ページの企業サイトにとってはSEOはシンプルなものだけで十分です。
しかし、大規模なサイト・複雑なサイトではそのように申せません。やはりSEOの情報が必要です。
しかし日本語でのSEO情報は「一般企業・ブロガー向けの、読みやすい良いコンテンツを作る情報」「アフィリエイター向けの成果に注力した手法の情報」に偏っています。巨大なWebサイト、複雑なWebサービスのSEOは少ないですし、特に多くのサイトに流用可能な汎用的な情報はほとんど見られません。
そのようなサイトでは、イベント等で信頼できる同規模のWebサイトの担当者を見つけて情報交換をすることや、一部の海外サイトでの情報収集、もしくは独自の実験などを行った上で、トライアンドエラーが必要になります。
「SEOはシンプルになった」「SEOは複雑になった」という2つの分断は、今後更にその傾向を強めるでしょう。
検索エンジンが今後更に精度を上げて人間の評価に近づくことで更にシンプルになるでしょうし、今後更に複雑さを増すWebに対応していくSEOも更に複雑になるはずです。
それぞれのWebサイトに向き合って、本当に必要なSEOを取捨選択して進めていくことが求められます。
今回私たちが立ち上げた株式会社JADEでは、この「巨大なWebサイト、複雑なWebサービス」を特に得意分野として対応を行ってまいります。
仕事としてお受けできる量は限定されますので直接ご協力できる機会は少ないかもしれません。ただ、可能な範囲で情報発信を行ってまいります。
そのようなサイトのSEO施策はWebサイトによって異なることが多いものですので、記事として発信できることは少ないかもしれませんが、可能な範囲で今後こちらのブログを中心に書いていきます。
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