
2026年5月、JADEはSEO業界でも注目度の高い国際カンファレンス「Ahrefs Evolve Singapore」にGold Sponsorとして参加してきました。スポンサーパネルには伊東が登壇し、JADEファウンダーの長山は、ここ1年ほどJADEが向き合ってきたテーマ——「SEOやマーケティングの現場で、AIにちゃんと当たるアウトプットを出させるにはどうするか」——について、ハンズオン形式のワークショップを行いました。
シンガポールでどう受け止められるかは、正直やってみるまでわかりませんでした。結論から言えば、「同じ課題を抱えている人たちに、思っていた以上にまっすぐ届いた」というのが今回のレポートです。
なぜ「コピペしたプロンプト」はうまくいかないのか
AIを仕事で使い始めたとき、たいていの人がたどる流れがあります。SNSで見かけた"効くプロンプト"を試す。出てきた答えは一見それらしい。けれどSearch ConsoleやGA4の数字と突き合わせると、整合しない。もっと厄介なのは、AIが自信満々に「存在しない数値」を返してくることです。
AIは、必要なデータも、使える道具も、業務の前提理解もない状態での一発勝負がそもそも苦手です。問題はプロンプトの良し悪しというより、AIが正しく仕事できる"仕組み"が整っていないこと。だから磨くべきはプロンプトではなく、システムの方なんです。
これは日本の現場だけの悩みではありませんでした。会場の反応を見ていると、ここで多くの人がうなずいていた。スタート地点の課題感は、国境を越えて共通だったようです。
プロンプトエンジニアリングから「ハーネスエンジニアリング」へ
ワークショップでは、プロンプトエンジニアリングの次の段階として ハーネスエンジニアリング (harness engineering) という概念が紹介されました。ハーネスとは、作業動物や新入社員が「何を・どうやって」進めればいいかを迷わないように、必要な装備と方向性を与える仕組みのことです。

新しく入ったメンバーが初日から成果を出すために何が必要か、想像してみてください。正しいデータ、使えるツール、進め方の手順、そして問題の捉え方。AIにも、まったく同じものが要ります。
JADEではこれを、次の4つの要素として整理しています。
- データ (Good data)
- 正確で、抜けのない一次データ。これがないとAIは"推測"で穴を埋めますし、しかもその推測を自信満々に出してきます。
- ツール (Tools)
- 必要なAPIや統合がそろっていて、AIが実データに触れる状態。JADEではAhrefs、BigQuery、 Amethyst に加えて、プロジェクト管理やドキュメントツールもClaudeとつないでいます。
- スキル (Skills)
- キーワード分類、サイト監査、コンテンツ生成といった特定の業務をこなすための手順書 (Markdown)。AIに「何をするか」だけでなく「どうやるか」まで渡します。
- マインドセット (Mindset)
- ドメインを分析的に捉えるためのフレームワーク。一番作るのが難しい一方で、もっとも長く価値が残る部分でもあります。

この4つが揃って、ようやくAIは"当たる"アウトプットを出せるようになります。プロンプトひとつで頑張るのではなく、仕組み全体でAIを支える、という発想の転換です。
検索インタラクションモデルと、会場のシャッター音
ハーネスでいう"マインドセット"にあたるのが、JADEの「Search Interaction Model (検索インタラクションモデル)」です。JADEブログでは何度も取り上げているのでここでは詳細は割愛しますが、ぜひ下記のリンクを。
このモデルは、SEOを2つのトラックに分けて捉えます。
- 検索エンジン側 (DCIR):Discover → Crawl → Index → Rank
- ユーザー側 (QCLS):Query → Click → Land → Surf
ぼんやりした問いを具体的な問いに落とすための思考フレームワークです。
このスライドが映ったとき、会場のあちこちで一斉にシャッター音が聞こえました。中には、その場でJADEのサイトを開いている人もいて、響いている空気がありました。
GEO (生成AI検索最適化) の話題が増えてきた今でも、「発見から行動までを段階で捉える」視点は変わらず効きます。プラットフォームやランキングの仕組みが変わっても、この枠組みは持ち運べるんです。

【検索インタラクションモデルについて読む】
BigQueryエクスポート、まだやってない?
データの章では、長山が「まだSearch ConsoleのBigQueryエクスポートを有効化していないなら、まずはそれだけでも持ち帰ってください」と投げかけ、「すでにエクスポートしている人は?」と挙手を求めました。手が挙がったのは、おそらく一人。まだ多くの人にとって、BigQueryエクスポートは"これから"の話だということがわかる場面でした。
BigQueryエクスポートやURL Inspection APIの活用についてもJADEブログで何度か触れているのでここでも詳しくは書きませんが、要点はシンプルです。Search ConsoleのWeb UIやAPIには上限があり、多くのチームは想像よりずっと早くこの天井に当たっている。AIが"欠けたデータ"を前提に推論すれば、洞察も欠け、ときには結論ごと間違える。「AIが変な数字を出した」という不満の根っこは、モデルの幻覚というより、与えたデータが足りないだけ、というケースが少なくありません。
BigQueryなら、こうした制約がほぼ消えます。AI活用を"当たる分析"に変えるための土台は、ここにある。ただし、エクスポートを有効化した日からのデータしか溜まらないので、先延ばしにするほど、取り戻せないデータが増えていきます。これだけは、今日からやっておく価値があります。
ぜひこちらの記事でご覧ください。
ライブデモ:「ここまで動くのか」を見せる
セッションでは、長山が2つのライブデモを披露しました。
1つ目は、グローバルに知られている大手ブランドを題材にしたキーワード分類のワークフロー。国籍を問わず会場の参加者がイメージしやすい題材で進めていきます。ClaudeにAhrefs統合と、あらかじめ用意したスキルを組み合わせ、サイトのキーワードデータを取得して、意図やコンバージョン可能性で分類していきます。デモの途中で軽い笑いが起きる場面もあり、会場が乗ってきているのがわかりました。そこから浮かび上がってきたのは、「高コンバージョンのバケットは、ほぼブランド需要に支配されている」という示唆。指示一発で動いたわけではなく、スキルとデータ基盤が裏側にあるから、出力の信頼性が担保される、というのがポイントです。
2つ目は、blog.ja.dev を対象にした Amethyst +BigQueryによるサイト監査。トップラインの発見は、「ブログがサイトのインプレッションとクリックの大部分を稼いでいる一方で、読者はほとんど他ページへ回遊していない」というもの。打ち手として提案されたのは、メインサイトへの導線となる"ブログ→サイトのブリッジ"を、記事内モジュールとして設計することでした。
レポートが一気通貫で出てきた背景には、正しいデータ接続と、正しいスキルの整備があります。
スキルは、育てるもの
会場からは「スキルはどうやって作るのか」「どれくらいの頻度で更新すべきか」という質問もありました。後者についての長山の答えは率直で、「古いスキルを頻繁に直すより、新しいスキルを足していくことの方が多い」。そして、特定の成果物に紐づいたスキルは、その成果物が変わったタイミングで見直す、というスタンスでした。
Claudeにはスキルジェネレーターがあって、いくつか質問に答えるだけで初稿を作れます。あとは反復です。
- スキルを動かす
- 狙い通りか確認する
- ズレを直す
- また動かす
新しいメンバーに業務を教えるときと、本質的には同じプロセスです。
JADE社内では、Notionにスキル用のDBを用意して誰でも書き込める形にしています。時期によっては「各自の"推しスキル"を持ち寄って発表し、投票で盛り上げる」というイベント的な運用もしていました(こちらは近日中に記事になる予定)。

翌日、ブースで起きたこと
ワークショップ単体ではなく、その翌日のブースまで含めて振り返ると、今回の手応えがよりはっきり見えてきます。

ブースには、ワークショップを聞いた人たちが戻ってきてくれました。話しかけてくれた人の多くがコンサルタント側の方々で、彼らが持ってきたのは抽象的な質問ではなく、具体的なクライアント案件に紐づいた相談でした。「うちのクライアントでこういう状況があるんだけど、ハーネスをどう組むべきか」「Search Interaction Modelについて詳しく」——昨日渡された思考の枠組みを、自分の現場に当てはめて持ってきている。これは、ワークショップが単なる情報提供ではなく、考える道具として機能した、ということだと思います。
Amethyst についての質問もありましたが、それと並んで多かったのが「JADEのコンサルティングサービスについて教えてほしい」というもの。ツール単体ではなく、ツールを活かす方法論ごと必要としている層が、アジアにも厚く存在するということを実感しました。
そして、もう一つ印象に残った質問が「MCPは使えるか?」というもの。ワークショップの直前のセッションは、Ahrefsチーム自身が社内でAIをどう使っているかという内容でしたが、会場に集まっていた人たちは「AIを使うかどうか」というフェーズはとっくに超えていて、「どう組むか」「どう繋ぐか」を考えていた。 Amethyst にMCPで接続できるかを聞かれるという事実そのものが、業界の現在地を表しているように思いました。
【Amethyst MCPについて詳しく知る】
AIが進化しても、価値が残るもの
長山は、変化のスピードについても率直でした。個々のスキルは、数週間で陳腐化することもある。けれども価値が残り続けるのはハーネスそのもの——データ接続、ツール統合、そして問題を捉えるための思考の枠組みです。ここは時間とともに積み上がって効いてきますし、モデルが変わっても持ち運べる。
繰り返しになりますが、今回シンガポールに行ってみて改めて思ったのは、この方法論は持ち運べる、ということでした。日本で積み上げてきたものが、国境を越えても同じ手触りで受け止められる。同じ課題を抱えている人たちに、同じ言葉で届く。
ワークショップに足を運んでくださったみなさん、そしてブースに立ち寄ってくださったみなさん、本当にありがとうございました。Ahrefs Evolveは、今年前半戦のハイライトのひとつになりました。JADEは海外イベントにも継続的に出展していますが、アジアでのカンファレンス参加はチームとして初めて。これをきっかけに、アジアも含めて、今後も積極的に海外の場へ出ていければと思います。

「自社でもハーネスを組みたい」「もっと具体的に話を聞きたい」——そんな方は、お気軽にご連絡ください。