【JADEcon 特別セッションレポートvol.1】AIがあっても変わらないこと——円熟期SEOが語る検索マーケティングの今

AIの台頭で変わること・変わらないこと、ゼロクリック時代の指標設計、SEOの未来——長年のキャリアを持つ3人が、JADEcon 2026の特別セッションで本音を語りました。

2026年3月27日、渋谷・東京カルチャーカルチャーで開催した「JADEcon ―JADE 春のSEO祭り―」。多くの方にご来場いただき、まことにありがとうございました。また席数の関係で、今回ご参加いただけなかった皆様にお詫び申し上げます。次回以降の企画をお待ちいただきたいのとあわせまして、今週より数回にわたってお送りする、JADEcon@JADEブログをお読みいただければ幸いです。

主催者あいさつに続きプログラムの冒頭を飾ったのが、SEO業界で長年に渡るキャリアを積んだ3人によるパネルディスカッションでした。

登壇者は、合同会社58代表の吉野(きの)五十也さん、ナイル株式会社取締役の土居健太郎さん、株式会社Faber Company執行役員の副島啓一さん。モデレーターは株式会社JADE代表取締役社長・COOの伊東周晃が務めました。


久しぶりにSEOの現場に戻って感じた変化

テーマに入る前に、伊東から土居さんへ問いかけがありました。土居さんは土居さんは2015年に『10年つかえるSEOの基本』を上梓したSEOのキャリアを持ちながら、人事・経営領域の仕事が中心だった数年のブランクを経て、SEO実務の現場へ戻ってきた経緯があります。久しぶりに見た業界の景色はどうだったのでしょうか。

土居 昔は変なことを言おうものなら、Twitterでボコボコに叩かれるような時代だったんですよ。最近は変なことをどれだけ言っても誰も文句を言わない。ある意味平和になりましたが、根拠があろうがなかろうが言ったもん勝ちみたいなところも出てきていて。誰が言い出したのかよく分からない言葉が普通に定説として浸透している。怖いなと思いましたね。

副島さんは、翻訳精度の向上がもたらした変化を加えました。

副島 翻訳精度が上がって海外の情報にすぐアクセスできる世界になった。LLMは英語圏のデータを中心に作られていて、外資が日本市場に入ってくることも含めて考えると、バトルフィールドはもう日本だけじゃなくなった気がしています。

写真左から、伊東周晃・吉野五十也さん・副島啓一さん・土居健太郎さん

AIによる仕事の変化——やめたこと、始めたこと

AIの登場で日々の業務はどう変わったか。やめたこと・始めたこと・時間配分の変化について、3人が実体験を語りました。

伊東がテーマを投げかけると、吉野さんはまず「やめたこと」から話し始めました。

吉野 一番大きいのは、諦めるということをやめられてきたことですね。プロダクトを作るときって、常にトレードオフの積み上げで、リソースがないとか時間がないとか。前は諦めることが8個あったら、今は3つくらいになってきた感じです。AIのパワーで届く範囲が広がっています。

続いて、APIをすべてつなげて分析をエージェントに任せるスタイルへ移行したことを話してくれました。ただしお客さんへのアウトプットのレビューは欠かせないといいます。

吉野 私は基本的にAPIを全部つなげていて、分析もエージェントに任せています。ただ、お客さんに出すものなんで、レビューをしなきゃいけない。ClaudeにMCPを直接つなぐだけだと、大きめのデータを扱う際にコンテキストウィンドウを圧迫してしまい、誤りが生じやすくなります。そのため、APIを通じてデータベースにデータを連携し、AIにSQLで集計させる構成をとることで、コンテキストの肥大化を防ぎつつ、処理内容のレビューもしやすくしています。プレイヤーから多少出世してメンバーにお願いするようになったとき、仕事って成果物のクオリティコントロールだったんですよ。今やっていることって、結局それと同じだなという感じです。AIが相手になっただけで、構造は変わっていない。

副島さんが挙げた「始めたこと」は、効率化とは逆のベクトルを向いていました。

副島 今さらながらうちの会社でサイト制作を真面目にやり始めました。コーポレートサイトの構築って、いろんな経営者さんと深く話せる機会になる。Webに出ている情報だけでは分からない、お客さんの事業理解や社内カルチャーをちゃんと把握することで、ビジネスの強みがよく見えてくる。もう一つは、うちのメンバーに「お客さんのところに会いに行こう」という話を、KPI管理の中でするようになりました。AIで業務が自動化できて空いた時間を、SEOプレイヤーもオフラインの接点を増やして現場の情報をあつめ、汎用LLMが持ちえない情報を取りにいくということです。

土居 やめたことはあまりないんですが、前までだったら「まとめておいて」「データ出しておいて」とあちこちに送っていたのは、自分でやるようになりました。部下にタスクを振ることが大体減りましたね。ただ「この作業に1週間かかるってどういうこと?」という質問をするようになった。「この作業に1ヶ月かかりました」に対して「冗談でしょ」みたいなことを言い始めた、というところがありますね。

それと離れていた数年の間に何が起きたのか、コアなアルゴリズムの部分が分かんなかったんですけど、特許のドキュメントがいっぱいあるじゃないですか。ああいうのがどういうふうになってるかを調べるのがめちゃくちゃ楽になった。「これは適当な話だな」「このあたりは確からしい話だな」という分別をつけられるようになった。いい進化だと思っています。


AIがあっても変わらないこと

変化の話の裏にある「変わらないもの」とは何か。検索技術の本質から、人間のジャッジ力の重要性まで、議論はより根本的なテーマへと向かいました。

吉野 検索技術は変わっていないと思います。起きていることはユーザー側のレイヤーで起きていて、インターフェースの部分と、検索して取ってきたものを並び替える部分ぐらいからAIが入ってきている。それより先のアーキテクチャはまったく変わっていないかなと。クローラーが収集してシグナルに基づいてランキングを決めるという基本構造は変わっていないので、やることがあまり変わらないという感触です。

副島さんも同意しながら、仕事量の観点を加えました。

副島 AIがあるからお客さん側の事業規模が倍数的に増えるわけではないので、AIがあっても競合もAIなど活用して事業をする以上、自社も活用して仕事し続けないと生き残れないことには変わらない。(SEOにおいても)簡単になることはない思って仕事をしていく必要はあると思っています。

土居さんはまず、情報の信頼性について一言。

土居 Xのフォロワー数やインプレッションを伸ばしたい人のSEOの投稿は大抵当てにならない——これはAIがあってもなくても変わらないですね。正しいことを言っていてもつまらないからバズらないです。

そのあとも核心を突く言葉が続きます。

土居 最終的に投資のジャッジをするのは人間なんですよ。ジャッジをする人がポンコツだと、AI使ったってポンコツな仕事しかできない。AIが出すSEOプランに対して「こんな適当なことを言ってんじゃないよ」と言えるかどうかが、めちゃくちゃ大事です。むしろAIがあるからこそ、今まで以上に勉強しなきゃいけない気がしています。判断できる頭と経験を持ち続けること——うちの社員にも口酸っぱく言いたいですね。

伊東も「そのレビュー機能が大事なんですよね。自分がレビューできない状態でAIのアウトプットが表に出てしまったとき、リカバリーが難しくなる」と加えました。


「AIの回答に自社を出したい」と言われたら

現場の担当者が上司やクライアントから受けがちなこの要望。どう受け止め、どう動くか。伊東が「生々しい質問」として投げかけると、3人の答えは……?

土居 私の肌感だと、担当者さんがAI検索対応を重視していても上層部が「意味あるの?」と言っているケースと、経営層から「競合も出ているからうちも出るようにしろ」と言われて担当者が悩んでいるケースと、だいたい1対2くらいのバランスがある気がします。

吉野 私はやりましょうというタイプです。AIの回答に出たいということは上司がやる気になっているわけで、SEO担当だとしたら利害関係が一致するんですよ。出すためにこれをやりましょうという形で使えばいい。

伊東 利害関係の一致とは具体的には?

吉野 ほんとにやった話なんですが、サーバーサイドレンダリングの実装をエンジニアにお願いしたら、「これほんとに意味あるんですか」と小一時間詰められて。説き伏せたら、今度はもっと強いエンジニアが来た。さらに1ヶ月後には、コスト削減プロジェクトのエンジニアが来て「これ月30万かかってるけど削ろうぜ」と言ってくる。そういう調整コストがずっとかかっていたんですが、「AIの回答に出すために必要です」の一言で、全部終了するんですよ。SEOの施策としては同じことなのに、AI向けだと言ったら一瞬で通る。利害関係が一致しているのだから、やる気が出ている人がいたらそれを利用したほうがいいと思います。

稟議の名目という観点を付け加えたのは土居さんです。

土居 大きな会社になるほど、稟議書に何を書くかで予算がつくかどうかが変わってくる。「SEO」「コンテンツ制作」と書くと削られがちなのに、「AI検索対応」と書いたらなぜかお金が出る——という力学が全然あるので。実質的にやることは変わらないんですよと言ったところで何にも生まれないので、とりあえずやりましょうという方向に持っていくことが大事だと思っています。

ROIを聞かれたらどうするかという副島さんの問いかけにはーー。

土居 計測のしようがない領域なので、「結構大事だと思いますよ」みたいな話をするしかないですよね。

伊東 AI検索関連の取り組みは、現場の方よりも組織内の上層部の方、経営者の方が気にされることが多い印象があります。支援する側としても、AI向けSEOに対する期待値を適切に持っていただくためにはこの層の方々に会う機会を持たせていただくことは大事なことだとは思いますね。


ゼロクリック時代の定量指標

検索結果の画面上で情報が完結し、サイトへのクリックが発生しないケースが増える中、成果をどう測るか。まだ答えのない問いに対して、3人がそれぞれの考えを示しました。

土居 中間のプロセスが見えなくなる部分は確かにあります。ただ、最終的なゴールは、知ってもらった上で買ってもらった、申し込んでもらったというところ。入口と出口は見えているので、売上や事業指標が良くなっているかで判断する。投資をするかどうか判断する立場から言ってしまえば、いくら中間指標が良くなっても、最終的な成果にヒットしないなら「それってなんか意味あるの?」という話にしかならないわけです。

副島さんはアウトカム重視を前提としながら、ブランド露出のモニタリングという観点を加えました。

副島 知ってもらえないことには何も始まらないので、ブランドが出ているかどうかのモニタリングは一定数必要だと思っています。ユーザーの行動がどんどんショートカット化していく中で、そのプロセスの中にブランドが出ているかを把握し続けることは大事です。最終的には売上とセットで説明していくしかないとは思っていますが、中間指標がないと説明が不足してしまうので。

吉野さんは先行指標と確率的アプローチという二つのアイデアを提示しました。

吉野 先行指標として見るなら、サーチビジビリティでいいと思います。検索結果の上位は調整が入っていますが、もう少し深いところまでのサーチビジビリティを見ると、先行指標として機能しそうです。AI検索の回答は非決定的なモデルで毎回違う結果が返ってくるので、「10回中6回表示された」という確率的な指標で傾向を把握するアプローチも有効ではないかと。テレビのエリアマーケティング的な発想——特定エリアだけで放映して売上への影響を計測する——に近いことを、特定のトピックでやってリフトを計測してみるのも面白いんじゃないかと思っています。


SEOの将来

セッションの最後は、この仕事の未来へ。1〜3年の短期的な変化から、自分たちの子どもの世代にSEOという仕事が存在しているかという問いまで、それぞれの展望を語りました。

副島さんは、2008年頃から今のAI検索まで同じことを繰り返している感覚があると話しました。

副島 テキストをAI向けに合わせようという話が今は多いけれど、最後はサイト自体のユーザー体験が勝負になると思っています。大手ブランドについての間違った情報が個人ブログに書かれてAIに拾われるケースが出てきていて、サイテーションのコントロールが必要になる時期が1〜2年で来るんじゃないかとも思っています。ただ、3年後にはそれも不要になる世界になるかもしれない。

土居 調査・分析を手早くこなせるという実行スキルの価値は間違いなく下がっていきます。代わりに、何をどれくらいやるのがビジネス的にちょうどいいかという判断力の重要性は増してくる。自分の娘が社会人になる頃には私は還暦を超えているので、正直よく分からないなという感じではあるんですが、少なくとも検索のインターフェースはすごく変わっている気がします。「昔は検索窓に言葉を打ち込んで調べてたんですよ」みたいなことを20年後には言っているイメージはあって。分からないことを何かに聞くというユーザーの行動は残るはずですが、おそらくその頃はそれを「SEO」とは呼んでいないでしょうね。

吉野さんは、SEO is Deadの世界を半ば思考実験として語りました。

吉野 ユーザーがテレパシーで欲しいと思った瞬間にGoogleがマッチングしてくれて、近くの3Dプリンターで製造されて届く——そこまで行ったらオプティマイズする余地がないのでSEOはなくなるかなと思ったんですが、さすがに夢物語ですね。

伊東 お時間となりました。本日はありがとうございました!

3人に共通していたのは、変化へ柔軟に対応しようとしている姿勢でした。検索技術の本質は変わっていない、最後に判断するのは人間だ——SEOという領域が何度も変化を迫られる中で、仕事をし続けてきた長年の経験に裏打ちされた貴重なお話が聞けました。吉野さん、副島さん、土居さん、ありがとうございました!

 

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